生体組織の機械物性は炎症や病変と強く関係することが知られているが,組織や細胞スケールで観察する手法が不足していることから検討が進んでいない.本研究では光学計測に着目して細胞のスケールの機械物性を計測することを目的に計測装置の開発を行なっている.機械物性計測に必要な応力の印加と変位の計測は,パルス光で発生する光音響波と光干渉計を用いて実現する.本報告では原理検証実験として2 つの計測を実施した.パルス振動の計測検証はアクリル水槽表面に中心周波数15MHz パルス超音波を照射し,その検出を達成した.光音響波の計測検証では光音響効果によって発生した表面振動を検出した.
中心周波数250〜300 MHz 程度の超高周波超音波を用いて各種の生体組織の音響インピーダンス評価を行う際に,生体試料を保持するシャーレとの密着性や組織内部の構造の複雑性によって正確な評価ができない場合もある.そこで,評価対象組織の各深度において,超音波がどのように反射しているのかを確認し,音響インピーダンス評価の精度について検証した.
低出力の超音波照射による顎骨壊死の治療の研究報告が近年着目されている。しかし、口腔治療用の超音波デバイスは開発されていない。我々は、これまで先端が数mmの大きさで3MHzで駆動する棒状の口腔用超音波デバイスを開発し、マウス実験により治療・予防効果があることを明らかにしている。棒状の超音波デバイスは手で把持して利用することを想定しているが、長時間把持し続けることが困難であると予想される。そこで、口腔内で固定できるマウスピース型の超音波デバイスを新たに提案する。マウスピース型は、圧電素子を歯科治療で汎用的に用いられるシリコーン印象材に取り付けた構造である。シリコーン印象材は口腔用の音響レンズとして有用であると考えられるため、本報告では、シリコーン印象材の音響特性について検討した。
筆者等はキャビテーション気泡崩壊などが生じる35k〜100kHz の周波数帯で精度の高い音圧計測を反射型FOPH で試みている。これまでに150kPa 程度のキャビテーション気泡の崩壊頻度が高い環境下で測定可能なことを示している。今回は圧電ハイドロホンとの比較を行うことで測定精度の検討を行ったので報告する。
本報告は,指向性を有する移動音源/受音点の2 次元FDTD 法への実装を検討している。2 次元音場の基本解が移動速度の影響を受けることから,移動モノポール音源の理論解を求め,それをダイポールとカージオイドに拡張している。理論的検討により,モノポール音源とダイポール音源で振幅に対する移動速度の影響が異なることを示している。モノポール,ダイポール,カージオイドの移動音源/受音点について数値実験を行った結果,指向性を組み入れた移動音源/受音点を精度良く表現できることが示された。
コウモリは,口や鼻から超音波パルスを放射し,標的からのエコーを聴き比べることで,標的の情報を取得する.音波伝搬の物理的性質から,エコーロケーションでは表面形状の情報や,さらには視覚では知覚が難しい物体の裏側の情報(死角情報)なども取得できると予想される.そこで本研究では,コウモリがエコーロケーションによってこれらの情報を利用できるかどうか調べた.アブラコウモリ(Pipistrellus abramus)4 匹に対して,オペラント条件付けを用いてターゲット(ドーム型,98×146×54mm,樹脂製)の弁別実験を行った.実験の結果,表面にある凹凸や,視覚では死角となる位置での物体形状の違いを識別できることが分かった.次にエコーに含まれるどのような音響的特徴がコウモリの手がかりになっていたのかを調べるために,弁別実験で用いたターゲットからのエコーを音響シミュレーションを用いて計算し,エコーに含まれる音響的特徴の違いとコウモリの正答率の関係を調べた.その結果,コウモリは物体からのエコーの時間周波数パターンを手掛かりにしていることが推測された.
非接触・非破壊で遠隔から複合材料,特にコンクリートの内部欠陥を検出・映像化する方法を研究している.可聴域の強力音波による対象物の加振を行い,レーザドップラ振動計で2 次元振動速度分布を測定し,周波数解析により,内部欠陥の検出・映像化を行う.内部欠陥の検出では,スペクトルエントロピーと空間スペクトルエントロピーを用いる.異なる場所・対象・測定条件に依存せず,同一基準で評価するため,2つのエントロピーの規格化を行い,吹付けコンクリート供試体を対象にして,適用した結果を報告する.
エコー信号の振幅包絡特性解析を基準として組織性状を評価するEnvelope Statistics の一手法としてDouble-Nakagami Model が提案されている.これまでに,単一振動子や臨床用プローブでの動物・人を対象とした検討が進められてきたが,送受信音場の特性による評価精度のばらつきが懸念されている.本検討では,超音波ビームの空間分解能と評価精度の関係性について検討した.
高品質・高定量な医用超音波(US)エコーイメージングのために、深層学習に基づき、(i)多重反射信号および(ii)グレーディングローブの低減・除去、(iii)多重交差波の分離、(iv)減衰補正イメージング、(v) 減衰係数の画像化、(vi)反射・後方散乱係数の画像化をシミュレーションを通じて行った。さらに、(vii) 乳房組織における良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)のセグメンテーションも行い、自動診断の可能性が示唆された。医用超音波診断イメージングにおけるそれらの新しい可能性が確認された。
L1 ノルムの正則化を超音波残響特性イメージングとベクトラルドップラー計測に適用し,L2 ノルムの正則化との性能を比較した。L1 ノルムの正則化は、L2 ノルムの正則化よりも高分解能な画像を生成し、超解像の高い効果が確認された。一方、ドップラー計測では、L1 ノルムの正則化はL2 ノルムの正則化よりも精度は低かった。両観測において定量的に計測するという点ではL2 ノルムの正則化の方が有効だった。
光音響顕微鏡(PAM)の撮像時間の改善法の一つにレーザのPRFの向上がある.本研究では,MEMS-mirror Optical-resolution photoacoustic microscopy (MEMS-OR-PAM) において,レーザPRFの向上による生体組織イメージングの高速化について検討する.X×Y=2 mm×2 mm (400点×400点) の撮像範囲において,レーザPRFを従来の10 kHzから50 kHzまで段階的に増加させ,MEMS-OR-PAMのイメージングの可否,撮像時間の測定,Leaf skeletonファントムの最大強度画像の画質評価を行った.PRFの向上は撮像時間の改善に有効であり,50 kHzの時の撮像時間は約6秒であった.一方,PRFの上昇とともに光音響波の信号強度は低下し,それに伴いContrast-to-Noise Ratio (CNR) も低下した.本研究結果を,生体内組織イメージングに最適な撮像条件に活用していく.
光音響イメージングによる非侵襲,簡便な初期脂肪肝の定量評価をめざし,2波長の信号強度比を用いた脂肪率の推定方法を考案した.様々な脂肪率の脂肪肝を模擬したファントムの多波長の光音響信号を計測し,2波長の選定を行った.波長920 nmと波長1210 nmの2波長を用いることにより,脂肪率の評価を行える可能性を示した.
メラノーマ深達度診断に向けた2光子光音響顕微鏡は,光子密度が高い焦点において2光子励起された光音響波を検出するために高空間分解能を有する.深さ分解能低下の原因として1光子光音響波の発生が問題であったが,フェムト秒光パルスを用いた2光子光音響信号のみを抽出する信号差分抽出法を提案している.本研究では,ナノ秒光パルスを用いた信号差抽出法を提案し,線形・非線形吸収による光音響波発生に関して基礎的検証を行った.
培養細胞を用いる超音波の生体作用研究では,細胞が受ける超音波照射量を正しく評価することが重要である.本研究では,細胞培養に用いるシャーレを模擬して小型容器を作成し,その内部音場をシャドウグラフ法により可視化し,定在波の発生を妨げる照射方法について検討した.その結果,広く認識されている水面反射の防止だけではなく,壁内伝搬波の漏出波,開口制限により生じる回折波の壁面反射も防ぐ必要があることが示された.
アンチバブルは内部に小さな液胞(droplet)を含む気泡のことである。dropletに薬剤を封入することによりドラッグデリバリーシステムとして利用でき、さらに気泡が超音波刺激に応答することにより局所での薬剤放出が可能である。したがって、理論上、アンチバブルと超音波によるドラッグデリバリー技術は薬剤が起こしうる全身性の副作用を軽減しながら、体外からの超音波照射で局所での薬剤浸潤・組織濃度を向上させることができる、いわゆる“magic bullet”である。研究は始まったばかりで改善点も多いが、今後に期待したい。
リンパ管を高感度に描出する手法として,超音波の音響放射力により生じる造影剤の移動をエコー信号の位相変化として検出し,画像化する方法を提案している.本手法のリアルタイム性を改善するため平面波イメージングを適用し,同時に,造影エコーに含まれる非線形成分を効果的に利用するためパルスインバージョンドプラ法も適用した.ファントム実験において平面波イメージングによりどのように造影剤の動態が評価されるかを検証し,コントラスト比およびコントラスト対ノイズ比により視認性の評価も実施した.その結果,平面波照射により引き起こされた造影剤の移動をドプラ法により定量的に評価できること,パルスインバージョンドプラ法により視認性が向上することを確認した.
一部の軟部組織は、変形する固体マトリックスの内部が流体で飽和した多孔質弾性体であることが知られており、その評価指標の一つとしてポアソン比が提案されている。高精度に得られた縦波速度とせん断波速度に基づき、より安定的にポアソン比を推定できる可能性がある。そこで本研究では、寒天グリセリンファントムにおいて超音波測定された縦波速度とせん断波速度からポアソン比を推定し、診断におけるポアソン比の潜在的な有用性について検討した。
集束超音波照射による励振源の高速走査を可能にする空中超音波フェーズドアレイ(Airborne Ultrasound Phased Array:AUPA)を用いた弾性波源走査法を提案している.AUPAを構成する超音波エミッタは,音波の放射効率を高めるため機械共振を利用した駆動であり狭帯域である.そのため,超音波エミッタから発生する音波は,入力信号の時間幅に対して数倍から数十倍の時間幅で放射される.この音波で励起された弾性波を固体材料内に伝搬させてガイド波伝搬イメージングを行うと,材料の健全部と欠陥部の境界付近でのガイド波伝搬が複雑に可視化されてしまう.この問題を解決する一手法として,ステップチャープ信号を用いた空中超音波励起によるLamb波のパルス圧縮を提案している.この方法では,時間に対して段階的に周波数が変化するステップチャープ信号を用いて計測対象内にガイド波を励起し,パルス圧縮処理を施すことでガイド波の時間幅を短くすることを実現している.本報告では,この手法の有効性を確認するため,端部での反射波を抑制させた金属薄板を用いてステップチャープ信号を利用したガイド波のパルス圧縮について実験的に検証を行った.
我が凶では、騒音に係る環境基準の評価対象が建物であり、人を対象とした評価はなされていない。しかし、騒音による被害状況を定量的に把握するためには騒音曝露人口を用いた評価が不可欠である。そこで本研究では、騒音曝露人口算出のために必要な居住者数を、WebスクレイピングとProject PLATEAUのオープンデータを用いて推計する手法について検討を行った。結果、世帯数・居住者数ともに精度よく推定することができ、推定した居住者数から算出した騒音曝露人口から、大阪市天王寺区に住む約2万1千人に交通騒音の健康影響がある可能性が示された。
音場解析の手法として、FDTD法(Finite Difference Time Domain Method)が広く知られている。しかしながら、円筒状空間での音の伝揺を円筒座標系の波動方程式に基づいたFDTD法を実行する際に、外周および内周の解析空間の端点に一般的なMurの1次吸収境界条件を適用すると、音圧が0に減衰しないという問題が生じた。Murの1次吸収境界条件は、直交座標系で境界面に垂直に入射する平面波が与えられることを仮定している。そこで、本研究では平面波を円筒波に変更することで新しい境界条件を導出した。この境界条件を外周の境界面に適用することで、音圧が0に減衰することが確認できた。
鉄道の新線建設時等に沿線騒音の予測に使われている騒音予測モデルの精度向上を見据え,移動音源の特段を把握する目的で移動音源から発生する音波の可視化を行った。可視化には,レーザーを用いて空気の密度変化を計測することができる偏光高速度干渉計を使用した。また,音源は(公財)鉄道総合技術研究所に新設された低騒音列車模型走行試験装置を用いて,最高280.5km/hで走行させた。可視化結果について空間周波数領域での分析を行い,ドップラー効果の周波数変調の理論植と可視化結果から得られた周波数が同様の傾向を示した。また,音源通過後には音波が模型表面を後方に伝搬している様子が観測され,境界層内を伝搬する音波である可能性が考えられる。
本報告は,指向性を有する移動多重極音源の2次元FDTD法への実装を検討している。2次元音場の基本解が移動速度の影響を受けることから,移動モノポール音源の基本解を求め,それを空間微分することにより多重極音源に拡張している。理論的検討により,多重極資源の指向性に対する移動速度の影響が次数により異なることを示している。CE-FDTD法へ移動多重極音源を実装することで数値実験を行った結果,指向性を組み入れた移動多重極音源を精度良く表現できることが示された。また,高次になるほど音源速度が指向性に与える影響が大きくなり,移動方向に指向性が鋭く,前後比が大きくなることがわかった。
現場における音波の伝搬を把握する方法として、これまで多くの可視化システムが提案されてきた。カメラとマイクロホンアレイを組み合わせ、2次元の動画像に音情報を重畳することで音の到来方向を可視化するなど、その多くは3次元音場の情報を2次元情報として可視化する必要があった。一方、我々は、近年発展する複合現実技術を用いることで、現実空間自体に音場情報を重畳する3次元可視化システムを提案してきた。また、音場の物理モデルに基づき、少数の測定から音場をモデル化し、直接音と初期反射音場を可視化する手法を提案している。本稿ではこれら2つの可視化手法について概説し、計測事例を紹介する。
腫瘍マーキングおよびセンチネルリンパ節(SLN)の同定を目的とした巨大ベシクル凝集体(GCV)の開発を行っている.SLN同定用トレーサである蛍光リポソームを内包したGCVを破壊し,トレーサ粒子を放出させる.マイクロバブル存在下で超音波を照射し,GCVから放出された蛍光リポソームを定量的に評価した.その結果,蛍光リポソームの放出量は,音圧,バースト長,およびマイクロバブルの数密度の条件に依存することを確認した.また蛍光リポソームの放出には音圧閾値が存在し,閾値がバースト長とマイクロバブルの数密度に依存しないことを確認した.
エコー信号から後方散乱係数を指標とした組織性状評価の試みが多数報告されている.生体組織を評価する際,散乱減衰と吸収減衰の影響が大きいが,吸収減衰の影響がしばし無視されることがある.本研究では吸収減衰が大きい媒質が後方散乱係数を評価する際にどのような影響を与えるのかを目的とし,2種の評価法を適用させ,後方散乱係数の評価精度の検証を行った.散乱体の体積分率が異なるファントムの比較,吸収減衰が異なるファントムの比較,各ファントムにおいてリフレクタ法とリファレンスファントム法の比較を行うことで,吸収減衰が大きい媒質の評価をする際の問題点について検討した結果,応用性の面ではリファレンスファントム法が有利であると確認された.
超音波顕微鏡を用いることで,細胞サイズレベルでの音響特性評価を行うことが可能である.一般的な薄切試料の作製方法にパラフィン包埋法と凍結法があるが,パラフィン包埋法で作製した薄切試料では臓器内の脂肪が融解してしまうという問題がある.本報告では,脂肪の音速評価を念頭に置いて,後固定法でラット肝臓の薄切試料を作製し,固定液の違いが音速評価精度に与える影響,および凍結試料における評価時の温度の影響について検討した.その結果,瞬間凍結処理後の試料を後固定することで,安定した音速評価が可能であることを確認した.また,音速の温度による変化傾向は,正常肝と脂肪肝で異なることを確認した.
超音波による血流計測は,超音波診断における必須の機能の1 つとして臨床で活躍している.既に臨床で確立している手法はドプラ効果を利用した手法である.ドプラ効果を利用した手法には,フーリエ変換を用いる方法および自己相関法を用いる方法が代表的な手法として存在するが,いずれも超音波ビーム(超音波伝搬)方向の速度成分しか検出できないという制約がある.そのような問題を解決するため,様々な手法が検討されている.本講演では,複数の方向からビーム方向速度成分を計測することにより真の速度ベクトルを推定するベクトルドプラ法を中心に,近年の動向について概説する.ベクトルドプラ法は,計測領域の各点に対して複数の方向から超音波を入射する必要があるため,通常のドプラ法に比べフレームレートは基本的に低下する傾向にある.フレームレートの低下を抑制するため,近年応用が進んでいる平面波などの非集束ビームを送信に用いる高速超音波イメージングも導入されている.ビーム方向速度の推定には,受信超音波信号の位相を用いた自己相関法が一般的に利用されるが,精度良く速度を推定するためには受信信号の位相は多数の血球からの散乱波どうしの干渉などの影響を考慮する必要がある.
エポキシ樹脂は,自動車・電子部品など様々な分野で使用されており,その硬化度を正確に評価する需要が高まっている。硬化状態の把握は,硬化条件の設定と共に,硬化後の材料評価として有効と考えられる。本報告では攪拌回数の異なるエポキシ樹脂を作製し,三次元音響インピーダンス断層像を用いて硬化ムラを観察した。音響インピーダンス断層像から算出した標準偏差に基づいて硬化ムラを評価した。さらに硬化時間に対する標準偏差の変化をエポキシ樹脂の硬化メカニズムに則って説明した。上記の結果,超音波顕微鏡を用いてエポキシ樹脂の局所的な硬化進展の違いをモニタリング出来る可能性が示唆された
本報告では、音響インピーダンス顕微鏡による複合モード観察について述べる。平面観察モードは、高分子基板を介して生体試料に送波した集束超音波の反射強度を基にするため、得られる画像は細胞厚さ全域にわたる情報が反映されにくい。そこで、得られる信号を基板表面と生体内部からの反射成分に分離し、疑似的に透過成分として画像表示する手法について検討した。断面観察モードでは、反射波形を時間軸上で積分し、深さ方向に沿った特性音響インピーダンス分布に逐次変換するため、波形の低周波ノイズが大きな誤差の原因となる。そこで、集束パルス超音波のビームが低周波領域で大きく広がることを利用した周波数分解空間平均法を提案した。提案した手法の効果を、培養細胞を用いて確認した。
生体軟組織の粘弾性を測定する非侵襲的な手法として超音波を用いるshear wave elastography(SWE)と磁気共鳴画像装置を用いるmagnetic resonance elastography (MRE)がある.本研究では粘性の指標の一つである,shear wave speed (SWS)の周波数分散性 (dispersion slope: DS)に注目し,貯蔵弾性率(G')と損失弾性率(G")やG'とG"の比である損失正接(tan δ)が異なるファントムを対象として,SWE とMRE によるDS を比較した.MRE の60Hz と90Hz から算出したDS はtan δ との相関が高かった.SWE によるDS は貯蔵弾性率との相関が高く,粘性の指標として扱うことは難しいことが示唆された.
我々はこれまで,肝臓を対象とし,3次元超音波ボリューム中のB モードとドプラモードの融合による血管構造の再構成や解析,複数のボリュームを用いた空間的な拡張などを画像処理の手法を用いて行ってきた.しかし,超音波ボリュームから血管網を抽出する過程において手技による血管網の選択やノイズ軽減が行われていため,解析に時間を要していた.そこで本研究ではFrangiフィルタを用いた血管網領域の強調による超音波ボリュームからの血管網抽出を試みた.これにより得られたボリュームと,手技によって抽出されたボリュームを比較したところ,同程度の範囲の血管網をより短時間で抽出できることを確認した.
本研究では,カテーテル先端から微小気泡を噴出し,その様子を撮像した時系列の3次元超音波画像に対して,深層学習を用いて血管内のカテーテル先端位置を検出することを目的とする.YOLOv4を用いてカテーテル先端周辺を抽出した後,ResNet50とConvLSTMを組み合わせたニューラルネットワークでカテーテル先端位置を推定する手法を提案する.この時,前処理としてFrangi filterや閾値処理を適用することで,ノイズを除去し,微小気泡の線構造を強調する.二つの模擬血管を用いてデータを取得し,それぞれを学習データと評価データに分けた.評価データの適用結果では,約2 mm未満の精度でカテーテル先端位置検出を実現した.
安全かつ簡便な非破壊検査方法の一つとして,強力空中超音波音源を用いた弾性波源走査法を提案し,研究している.強力な音波を発生させる音源を構成する超音波エミッタは,音波の放射効率を高めるために機械共振を利用した駆動であるため,狭帯域となる.そのため,超音波エミッタから発生する音波は,入力信号の時間幅に対して数倍から数十倍の時間幅で放射される.この音波で励起された弾性波を固体材料内に伝搬させてガイド波伝搬イメージングを行うと,材料内の欠陥部の境界付近ではガイド波伝搬が複雑に可視化されてしまう.この問題を解決する一手法として,ガイド波受信信号に対して符号変調を用いるガイド波パルス圧縮法を提案している.この方法では,バースト信号を用いて計測対象内にガイド波を励起する.その後,固定設置した受信器により取得したガイド波の時間波形に対して畳み込み積分を用いて符号変調を行った後,パルス圧縮処理を施すことでガイド波の時間幅を短くすることを実現している.本報告では,この手法の有効性を確認するため,アクリル製の試料に対して受信信号に対する符号変調を用いたガイド波のパルス圧縮について実験的に検証を行った.
気液二相流は工業的な流れでよくみられる基本的な流体現象であり,特に,気液二相流現象を利用したガスリフトポンプにおいて,その性能は管内における二相流量や流動様式に依存することから,管内二相流を非侵襲的にモニタリングする手法が必要である.そこで,本研究では管内状況を非侵襲的に計測可能な超音波に着目し,超音波による気液二相流中における気相流量を計測するシステムを開発した.本研究では,対向させたトランスデューサペアを用い,パルスエコー法およびパルスドップラー法を組み合わせた気相ボイド率と流速分布の同時計測システムを構築した.さらに,これら情報を用いることで,気相流量へと換算した.本計測システムによる気相流量計測精度について検証するため,内径50mm円管内に空気−水二相流を発生させ,各空気流量において本システムにより流量計測を行った.その結果,本システムにより±15%以内の相対誤差で二相流中における気相流量の計測が可能であることを示した.
長崎県端島(通称:軍艦島)にある築数十年から百年程度の古い鉄筋コンクリート(RC)造建築物の劣化調査は,RC部材の劣化メカニズムの解明に有用である.筆者らのグループでは,端島のRC柱を対象とした打音法による劣化調査を継続的に行っている.本報では,表面仕上げおよび周辺環境条件の異なる50号棟(タイル張り),65および66号棟(モルタル仕上げ,一部内装仕上げあり)のRC柱の劣化調査を行い,振幅や周波数特性について検討した結果について報告する.
音源搭載型UAVを用いた非接触音響検査法によるタイル外壁検査の検討を行っているが,自然風の影響によりUAV自体が大きく揺動した場合には,欠陥検出に失敗することがあった.そのため,実際に加振音波で信号が振動しているかどうかを判定する共振判定処理が考案されたが,想定されるUAVの移動範囲に応じて計算負荷が高くなるという問題があった.そこで,より高速な方法として,加振波形とLDVで測定された振動波形の相互相関をとる方法が検討された.検討結果より,相関処理を用いることで,音源位置が変化しても高精度な欠陥検出が可能であることが明らかになった.
非線形空中超音波と波源走査法を組み合わせた非線形空中超音波波源走査法による非破壊検査法を提案している.この計測方法は,非線形空中超音波を用いた高調波イメージング計測と,波源走査法による安定した計測を組み合わせた方法である.本論文では,非線形空中超音波波源走査法の計測原理,それを実現する実験装置および計測事例として金属薄板内減肉部の検証結果について述べる.
位相遅延量が異なる複数の発振ループを有する超音波厚さ計について示す。測定対象の試験体上に送信センサと受信センサを設置し、これらをアンプで繋いで発振ループを構成する。複数の発振周波数と音速から、厚さを推定する。発振周波数の計算および厚さ推定には、底面反射特性を用いる。位相遅延量を変えるため発振ループ内にローパスフィルタを設けて実験を行い、得られた発振周波数から試験体の厚さを推定できることを示す。
一般的な従来の光学レンズは単一の焦点のみを持ち,撮像時に遠近様々な場所で焦点を合わせるためには複数枚のレンズと機械的機構を用いた組み合わせレンズが用いられているが,この構造は応答速度が十分ではなく機器が大型化してしまう.そのため,電気的に焦点距離を制御可能なレンズは,より小型かつ高速撮像可能なカメラ発展に貢献するだろう.そこで我々は,音響放射力によってネマティック液晶の配向を制御する技術を用いて,2枚の円形ガラス基板間に形成した液晶層と圧電超音波振動子から成る超音波式可変焦点レンズを開発した.本レンズは液晶の持つ高い流動性と光学異方性を利用することにより,超音波振動によって液晶分子の配向を変化させ,レンズの光学的屈折率分布を制御する.本報告では,超音波式可変液晶焦点レンズを作製し,複数の機械的共振周波数で駆動し,これらの光学的特性を比較することによってレンズの周波数特性を評価した.その結果として,レンズの焦点変化特性はレンズ上に発生する超音波振動振幅に強く依存することが明らかとなった.異なる共振モードにおいてレンズ有効径が変化するため,駆動周波数によってレンズの有効径を制御できることが示唆された.
肝線維化を定量的に推定することで,びまん性肝疾患の進行や治療効果を評価することができる.本研究では,肝線維化の低侵襲・高精度な定量診断のために,エコー振幅統計解析と畳み込みニューラルネットワーク(CNN)解析を組み合わせた新たな定量診断手法を提案している.本報告では,まず振幅統計量の1種である3次モーメントおよび4次モーメントを用いて超音波画像を変調した.続いて,それぞれのモーメントで変調した2種類の超音波画像および元の超音波画像をRGB各層の画像とすることでカラー画像を作成した.作成したカラー画像を入力画像として,事前学習済みCNNの転移学習による肝線維化ステージ分類を行ったところ,10240枚の入力画像に対して 50.9%の精度で分類することができた.