医用超音波診断装置,いわゆるエコー装置は生体軟組織の診断に用いられているが,骨などの硬組織については,それら装置で使用されている数MHz 以上の超音波は軟組織との界面での反射が大きく,またその内部での減衰も大きいため描出が困難である.また,肺など気体の含有率が高い組織の描出も困難である.しかし,1MHz 程度の超音波を用いた骨の診断は行われているため,1 MHz 以下の超音波を用いれば現在描出が困難な組織も描出できる可能性がある.本研究では,300 kHz の防滴型空中超音波素子を用いて,低周波超音波イメージングに関する基礎的検討を行った.1 つの超音波振動子を用いてアレイ型振動子での超音波送受信を模擬するため,ステージを用いてラテラル方向11 ヶ所,エレベーション方向5 ヶ所の55 ヶ所(10 mm 間隔)において超音波送受信を行い,対象からの散乱波の計測を行った.超音波送受信により得られたエコー信号から,開口合成法に基づき,エレベーション方向の走査範囲の中心位置における対象のB モード断層像を構築した.細径金属ワイヤを用いた空間分解能の評価を行ったところ,方位方向3.1 mm,距離方向5.3 mm であった.スポンジファントムの画像化を行ったところ,水とスポンジの界面からのエコーは描出されたものの,スポンジ内部からの散乱波の描出は困難であった.また,不要波の影響が大きかったことから,phase coherence factor を用いた不要内の抑圧も試みた.Phase coherencefactor により不要波は抑圧されたものの,スポンジ内部からの微弱散乱波を描出するためには更なる不要波の抑圧が必要であると考えられた.
胎児の健康状態の検診には、分娩監視装置の超音波ドプラ信号を用いた胎児の平均心拍数の時系列が広く用いられている。胎児の健康状態をさらに詳細に検診するには、正確な胎児の瞬時心拍数の細変動解析が必要になる。そのためにはノイズが高い環境下でも、胎児心音の瞬時心拍数(RR時間間隔に相当)を正確に検出するための技術が確立することが重要である。本研究では、そのための第一歩として、従来音声のピッチ周期抽出に用いられて来た手法、短時間自己相関関数、短時間フーリエ変換を用いてパワースペクトルを求める方法を、分娩監視装置から出力される超音波ドプラ心音に適用する実験を行った結果を示す。
衝撃波を発生させる方法の一つとして水中放電がある.本研究は水中放電によって発生した衝撃波を用いて外来物質や外来遺伝子をヒト細胞に導入することを目指している.医療現場では衝撃波は細胞の破壊に用いられているが,遺伝子導入のように単発で,かつ低エネルギーの衝撃波が細胞に及ぼす物理的なメカニズムは,ほとんど解明されていない.そこで,シャーレ内のヒト線維芽細胞に衝撃波を照射して,外来物質が導入された細胞の分布領域から,衝撃波によって細胞に加わる物理的メカニズムの解明を目指す.シャーレ内には衝撃波による直接的な圧力変動だけではなく,その圧力変動によってひきおこされて発生したキャビテ—ションバブルやバブルの崩によって生じた水流が生じ,その結果,細胞に外来物質が導入されると考えている.
脳血管障害(脳卒中)の発症が各国で多い中,MRI検査の高速検査化は,緊急手術・治療につなげる上で,患者の生死を分ける,必達の問題である。ここで,大脳を画像化するための,プロトンの非緩和現象を同定すべき,拡散過程における・磁化強度や,実質的な問題を抽出し,CS(圧縮センシング)の面から,ウェーブレット変換(WL)を使ってのデータの量子化と,k空間のスパース行列の処理そのものの検査時間短縮寄与に関して検討する。
超音波を用いた脂肪肝の定量的な診断手法の1つとして,エコー信号のパワースペクトルの周波数依存性に基づいた散乱体サイズ推定法が挙げられる.この手法は,媒質中の主たる散乱体の大きさに対する,パワースペクトルの周波数依存性の差異に着目した手法である.本報告では,中心周波数が15 MHzと25 MHzの2種類の単一凹面振動子を用いて,平均粒径が60 ?mの散乱体(ガラスビーズ)を含むリファレンスファントムを計測し,散乱体サイズ推定法による推定値と振動子の特性および解析条件との関係性について検証した.いずれの振動子を用いた場合でも,解析領域の大きさを振動子の径方向に超音波ビームの点拡がり関数(PSF)の2倍,深度方向に波長の8倍に設定することで安定した推定値が得られることを確認した.さらに,組織計測における課題を洗い出すために,正常肝と脂肪肝モデルラットを対象として散乱体サイズ推定を行った.脂肪肝での散乱体サイズの推定値は15 MHzで正常肝の推定値に対して73.6 %,25 MHzで87.4 %となることを確認した.また,推定された散乱体径は散乱体として想定していた肝細胞の核や脂肪滴のサイズよりも大きく,30〜50 μmであった.
臨床実践される胎児監視においては産婦の腹壁上にドプラ、陣痛の2つのトランス デューサーを各々の最適位置に別々に装着する。本研究においてはこの煩雑さを避けるためこ れらを一体化して腹壁上の1カ所から両信号を採取する構成を試み、基礎実験において好まし い成果を得たので報告する。本研究に成る液室構造の手動プリセットステアラブル高斜角入射 ドプラ探触子は過去のいくつかのステアラブルではない一体化設計とは異なり、陣痛計の設置 最適位置であるみぞおち部から高角度の斜め入射で骨盤腔近くにある胎児心のドプラ信号を採 取する。試作機は長時間連続的に安定して動作し、診断品位の胎児心拍数図を得ている。
超音波骨折治療法におけるメカニズム解明のため,骨の超音波誘発電位について検討する.これまで我々は骨を圧電材料とみなして超音波トランスデューサを作成し,MHz 域の超音波照射による電位出力を報告した.本報告では,皮質骨と軟骨の MHz 帯域の圧電性を実験的に調べた.具体的には,パルス超音波をトランスデューサに照射し,(軟)骨トランスデューサの受波感度特性,および出力電圧の時間変化について検討した.軟骨にはハイドロキシアパタイトが少なく,コラーゲンが多く含まれる.軟骨の圧電性はコラーゲンによるものと考えられる.
ソノポレーションとは,超音波の照射により細胞膜の透過性を一時的に向上し,通常は細胞内に入らない物質をその内部に取り込ませる技術をいう.この方法は,他の物理的な導入法に比べて安全性が高いため,in vivo への応用が期待されているが,導入効率の向上が課題となっている.我々は,ソノポレーションの発生機序解明を目指して,超音波照射下で気泡が細胞に与える作用の顕微高速度観察を行ってきた.本発表では,生体の柔軟性を模擬した細胞試料とソノポレーション現象を側方から観察する手法を新たに開発し,よりin vivo に近い条件でソノポレーションの発生機序を検討した結果を紹介する.
高い柔軟性を有するフレキシブル超音波アレイプローブを開発した。従来のフレキシブルアレイプローブを改良し、指に巻くことができるほど柔軟性が向上した。柔軟性を生かした応用として、小さな曲率の構造物のほか指に巻いて血管計測を行うことや鼻に沿わせて骨の状態を観測するなど、人体における曲率の小さい部分での観測が考えられる。今回、高柔軟性フレキシブルアレイプローブの医用超音波への適用を模索するため、乳腺ファントムや手の甲、腕の観測を行った。それらの画像化を行い、乳腺ファントム内の疑似腫瘍や手の甲、腕の血管を画像化した。
前回の報告において,音速と流速が伝搬路の場所によって変化するときのドップラーシフトの改善計算式を導出した.本稿では,このドップラーシフト改善計算式の妥当性を実証するための実験を行ったので,実験方法およびその結果を報告する.音速とドップラーシフトの間の実測結果は,改善計算式から求めた予想値とよい一致が見られた.また,前回報告において,音源周囲の音速の解釈に誤りがあったので,付録に訂正文を掲載する.
本報告は,Lighthill 方程式を用いた空力音の3 次元FDTD 法による解析手法を提案している。まず,Lighthill 方程式の3 次元FDTD 法による定式化を示した。つぎに,微小空間にLighthill テンソルが存在する簡単なモデルを想定し,空力音の理論解を求めた。得られた理論解とFDTD 解を比較したところ,良好な一致を得ることができた。また,より実際的なモデルとして,ノズルから噴射されるジェットによる速度擾乱場から放射される空力音の解析を試みた。解析結果は,典型的なジェットからの放射音の傾向を示しており,本手法の妥当性が示された。
我々は,超音波音場を取得する光学的手法として画像差分シュリーレン法を提案し,その有用性を検討してきた.本報告では提案手法を用いて超音波治療用の強力集束超音波(HIFU)の音場を可視化し,ハイドロホン測定と比較した結果を述べる.超音波ビームの焦点の音場像から求めた伝搬方向と方位方向の半値幅は,それぞれ5.8 mmと0.42 mmであった.これに対し,ハイドロホンで測定した半値幅はそれぞれ7.3 mmと1.0 mmであり,伝搬方向の半値幅は良く一致した.方位方向の半値幅が一致しなかったのは,ハイドロホン受圧面の直径が0.5 mmと大きいことの影響と考えられ,可視化法が高い空間分解能を有していると考えられた.また,音軸上の輝度波形の二乗平均値と焦点での音圧波形から求めた超音波の平均強度には良い比例関係が見られた.さらに,輝度波形を空間的に1階積分した波形には,非線形性を考慮したシミュレーションで求めた音圧波形に類似した特徴が認められた.これらの結果より,本手法は音場の評価だけではなく,強度や圧力波形の簡易的定量評価にも有用と考えられる.
強力集束超音波治療の普及と発展にはコスト面で有利な超音波ガイド方式における安全性と再現性の向上が不可欠である.本研究では,治療前に凝固が生じる領域を予測するターゲティング手法の検討を行った.治療用超音波の吸収に伴って作用する音響放射圧により生じる組織変位を可視化するARFI法を適用することで,実際にエネルギーが散逸する真の焦点を事前に確かめることができると考えられる.ARFI法により変位分布を取得した後HIFU照射を行い試料に凝固を生じさせ,そのスライス像の肉眼所見と比較を行った.その結果,HIFUの減衰や屈折に起因する焦点領域の変化に追随する変位分布が得られ,焦点可視化手法としての有効性が示された.
現在の結石破砕術の第一選択は体外から衝撃波を集束させ結石破砕を行うSWL(shock wave lithotripsy)である。しかし,この手法は破砕片や正常組織の損傷が比較的大きいことが問題として挙げられる.そこでこれらを解決するために集束超音波によるキャビテーションエロージョンを利用した結石破砕療法の研究を行っている.問題点として治療時間が長いことが挙げられる.これまでは時間的に焦点走査を行うことで破砕速度の向上を行ってきた.しかし高強度かつ高繰り返し周波数の条件においてはキャビテーションクラウドが超音波の伝播を妨げてしまい破砕速度が飽和するという問題があった.そこでトランスデューサに位相制御をかけることで同時に複数焦点作り出し1点に集束していたエネルギーを分散させ広範囲かつ高速な破砕を目指した.
我々はこれまで古典的抗がん剤シスプラチンのソノポレーションを獣医臨床に応用するための検討を行ってきた。今回はシスプラチンの効果増強と腫瘍細胞のシスプラチン取り込みとの関連を探るため、3次元培養系でシスプラチンと超音波+マイクロバブルを併用し、殺細胞効果の判定および白金定量を行った。また、培養ディッシュに播く3次元培養の溶液量を変えて、超音波+マイクロバブルによるシスプラチンの作用増強が観察できる溶液量(厚み)を検討した。さらに、3次元培養の溶液量を固定し、超音波照射からシスプラチン添加のタイミングを変更して、殺細胞効果への影響を観察した。
床超音波医学に造影剤技術が導入されて以来、超音波とファインバブルの相互作用に関する研究報告は極めて多いが、超音波とナノ粒子併用に関する生物・生体作用に関する報告は少ない。最近の研究で、集束超音波と金ナノ粒子併用により、がん細胞より効率的にネクローシスを誘発することが報告された。 我々は抗酸化作用を有する白金ナノ粒子を各種物理的ストレス(紫外線、温熱、放射線、大気圧プラズマ)処理に併用した場合の細胞死への影響について検討し、アポトーシスを抑制することを報告してきた。本研究では、抗酸化作用を有する白金ナノ粒子と抗酸化作用を持たない金ナノ粒子の超音波との併用効果について得られた細胞死の結果を報告し、その相違点について考察する。
これまでに我々は、脂質を殻に持つバブル(リピッドバブル; LB)の殻組成に DSPG を組み込むことで、LB の安定性が改善することを見出してきた。そこで本研究では、血中安定性向上に向けた DSPG 含有率の最適化と腫瘍標的化に向けた基礎的検討をおこなった。殻組成(DSPC:DSPG:DSPE-PEG(2k)=0〜90:90〜0:10(モル比))の LB を調製し、それらをマウス眼窩静脈より投与した。その後、超音波造影輝度を指標に血中安定性を評価した。腫瘍標的型 LB は、腫瘍新生血管を認識する cRGD ペプチドを LB に修飾し (cRGD-LB) 臍帯静脈内皮細胞 (HUVEC) への接着能を評価した。その結果、DSPG を60%含有する LB において最も長時間の造影が可能であった。cRGD-LB の HUVEC への接着が確認されたことから、今後これら LB を診断や治療へ応用可能であると考えられる。
切除不能の進行・再発口腔癌に対する治療法の選択肢は少なく、新規治療方法の開発が望まれている。その中で近年、セツキシマブ等の分子標的薬が注目されている。本研究では、セツキシマブを付加した分子標的化アルブミンバブルと癌細胞に超音波を in vitro にて照射し、殺細胞効果の向上およびアポトーシス誘導が認められるか検討した。アルブミンバブル単独に対して分子標的化バブルと超音波照射併用群で最大で約 10%、超音波単独照射群およびセツキシマブと超音波照射併用群と比べると約 20〜30% の細胞殺傷効果の向上が認められた。また、分子標的化バブルと超音波照射併用により、全体の約 20% の細胞にアポトーシスが認められた。
微小気泡と超音波を用いた遺伝子デリバリー研究が盛んに行われている。これらの基礎研究において、細胞培養容器ごと遺伝子導入操作が可能な装置の開発が求められている。そこで本研究では、新規に開発した複数の超音波振動子を励振可能な装置と微小気泡(バブルリポソーム)を用いて遺伝子導入し、その遺伝子発現を指標に遺伝子デリバリーの特性評価を行った。その結果、本装置とバブルリポソームを用いることで細胞内へ遺伝子導入できることが明らかとなった。このことから、本装置が培養細胞に対する超音波遺伝子導入デバイスとして有用であることが示された。
音速は組織性状を反映し、弾性や含水量の評価指標として非侵襲測定が望まれている。しかしながら実質的に超音波の伝搬時間のみを測定する超音波診断装置単独では音速を測定することが難しい。そこでMR画像から得られる幾何学的な距離情報と組み合わせ、音速の非侵襲測定を可能にするマルチモダリティ法の検討を進めている。本研究では、これまでに取得した再生軟骨の生体内評価データを用い、音速測定の精度改善について検討を行った。
病変肝超音波画像の振幅分布特性に着目したびまん性肝疾患の定量診断手法を検討している。本報告では,超音波画像のエコー振幅データから一意に計算されるエコー振幅統計量に着目し,肝線維化の進行度とエコー振幅統計量分布の関係を検討した。本報告では,エコー振幅統計量として1次モーメントと3次モーメントを用いた。検討の結果,肝線維化の進行にしたがい1次モーメントは小さく,3次モーメントは大きくなる傾向にあることがわかった。さらに,1次モーメントと3次モーメントの2 次元分布を用いて評価したところ,分布のピーク位置や分散から肝線維化を定量評価できる可能性が示唆された。
癌や慢性肝炎などの疾患では、組織の硬さ変化を伴うことから、組織弾性を定量化することができれば早期発見や治療効果の判定ができる。超音波エラストグラフィの原理にはshear wave法とstrain法の2つがある。Shear wave法は組織内にせん断波を伝搬させ、組織弾性が大きいと組織内を伝わる伝搬速度が速くなる性質を用いるもので、定量性が高いと言われているが、せん断波の反射・屈折等によるアーチファクトが生じやすい。Strain法は、組織を圧迫し、生じたひずみ分布を求めるもので、安全で解像度が高いが、硬さの相対値のみが得られる。本研究では、shear wave法とstrain法とを組み合わせることでアーチファクトの少ない組織弾性画像を構成する手法を検討する。shear wave法でアーチファクトが生じやすい腫瘍などの硬い内包物を含む場合に焦点を絞り、定量的でアーチファクトが生じ難い組織弾性の推定法を検討した。
本研究グループは,高速超音波イメージングによる生体組織の動態計測に関する研究に取り組んでいる.そのためには,生体組織の変位・速度を推定する手法が必要である.現在,生体組織の2 次元もしくは3 次元変位の推定法としてスペックルトラッキング法が広く用いられているが,受信超音波信号のサンプリング間隔未満の微小な変位を推定するためには補間処理が必要であるなど,計算負荷が大きい.高速超音波イメージングでは,秒間最大数千枚という膨大な数の超音波像を処理する必要があるため,計算負荷を低減する必要がある.本報告では,補間を必要としない,2 次元フーリエ変換を用いた2 次元変位計測手法に関する検討を行った.2 次元フーリエ変換を用いた変位推定法はこれまでにも報告されており,その手法では位相スペクトルの時間変化から2 次元変位を推定している.位相スペクトル各成分の周波数は,通常サンプリング周波数と解析窓幅により決定されるが,フーリエ変換により推定される周波数スペクトルは,対象信号の真の周波数スペクトルと,解析窓の周波数スペクトルの畳み込みとなるため,特に解析窓が狭い(解析窓の周波数スペクトルのメインローブ幅が広い)場合は位相スペクトル各成分の周波数が不定となる.本研究では,位相スペクトル各成分の重心周波数を推定する手法を導入し,ファントムを用いて評価実験を行ったところ,周波数スペクトルの位相変化を用いた従来の推定法によるラテラル方向および距離方向の速度推定誤差がそれぞれ14%と3%であったのに対し,提案手法ではそれぞれ3%と2%に誤差を低減できることが示された.本手法は3 次元への拡張も容易であり,高速超音波イメージングにおける変位・速度推定法として有用である.
アテローム硬化によるプラークの崩壊は致死的な病態を引き起こしうるため、早期に発見することが重要である。そこで我々は、体表から撮像可能なハンドヘルド型光音響イメージング装置を開発した。頸部の構造を模擬したファントム実験により、開発した装置の有用性を検証した。対象となるプラーク吸収が強い波長の光を照射することで、深さ20 mmの位置においても模擬プラークの画像化が可能であることを確認した。さらに、複数波長を用いて光音響スペクトルと光吸収スペクトルの相互相関係数マップを作成することにより、特異的にプラークを検出できることを確認した。これらの解析をとおし、開発した装置の有用性を実証した。
環境騒音の現状を把握するための手がかりとして,騒音を可視化することは重要であるが,広範囲に及ぶ騒音計測を継続的に実施することは困難である.近年,様々な無人航空機が開発されており,騒音分野で応用することが可能となれば,広範囲の騒音計測が容易となると期待される.本研究では,空中の騒音を可視化する目的で小型無人飛行船を用いた騒音可視化システムを提案する.無人航空機に機体重量分の浮力のヘリウムガスを充填したバルーンを搭載することで,プロペラ回転騒音を可能な限り低減することが可能となった.また,空間の音情報の連続的な計測が可能となったことを報告する.
パルス波と連続波の超音波伝搬をシミュレータ、ハイドロホンによる計測でそれぞれ調べた。パルス波では直接波とエッジ波がそれぞれ発生した。連続波ではエッジ波や直接波が重なり、サイドローブ(副極)やゼロ輻射角、探触子中心軸上の音圧変動が発生した。近距離音場限界距離についてエッジ波により考察し、この距離について直接波とエッジ波が重なる限界の距離であることを確かめた。これらの現象は連続波の2 波以降で発生し、波の先頭では発生しなかった。また、波形でも2 波以降の波の音圧が変動していることを確認した。フェーズドアレイのグレーティングローブについてシミュレーションで調べ、この現象も連続波において2 波以降のエッジ波が重なって発生した。
音場の可視化手法の一つとして,カメラ画像または映像に音情報を重ねる手法がある.視覚情報と音情報の関連を効率的に理解することができるが,一般的な平面ディスプレイでは,画面に対して奥行き方向の音情報呈示が困難である.一方,頭部装着型の三次元ディスプレイ装置であるヘッドマウントディスプレイ(HMD)が急速に発展しており,ステレオカメラと組み合わせたビデオシースルー型HMDは,奥行き感のある拡張現実感を実現できる.本稿では,シースルー型HMDを用いて,三次元音場情報を両眼の映像に拡張するシステムを提案する.構築したシステムを用いてスピーカ周辺の三次元音響インテンシティマップを可視化する実験を行い,システムの有効性を検証した.
室内音環境を形成する大きな要因となる室の境界面の音響特性を求める方法のうち、壁面の音波散乱性能を計測する手法では、試料端部からの回折波による計測誤差が問題となる。本研究では、回折の影響を回避した精度良い測定手法として、超音波を利用し鋭い指向性を実現したパラメトリックスピーカを用いて音波を試料中心に局所的に入射させることを考える。これまでの検討よりパラメトリックスピーカから放射する音源の超音波成分がマイクロフォンの周波数特性に影響を与えることが示された。そこで、提案手法に適当なマイクロフォンの選定、およびこれを用いた吸音材の吸音率、板の反射指向特性の測定結果について報告する。
トンネル坑口周辺部における音響伝搬特性に関して,1/40縮尺の模型実験を行った。縮尺模型実験では,縮尺比に応じた高周波数帯域の音が対象となるため空気吸収の影響が避けられないが,本検討では空気媒質における測定結果に信号処理によって空気吸収の逆補正を行った。反射性および部分吸音性の2種類のトンネルを対象として,坑口からの放射指向性,トンネル明かり部沿道の音圧レベル,遮音壁の効果に関して実験を行った。放射指向性については指向性の単純モデル化に関する検討を行い,明かり部沿道についてはASJ RTN-Modelによる計算結果との比較を行った。
空中超音波による共振法を用いて試験体の厚さを非接触で計測した。まず基礎実験として鋼板試験体の厚さ計測を行い、探触子と試験体との距離により共振信号が変化することを確かめた。送信周波数を変えて実験を行い、厚さ3[mm]の鋼板の厚さを共振法で計測した。さらに送信信号にチャープ波を使用し、チャープ比を変化させて周波数範囲の広い場合と周波数範囲の狭い場合においてチャープ比が計測に与える影響について調べた。チャープ比を調整してアクリル試験体の厚さ計測を行い、厚さ0.2[mm]の変化を共振法で計測できた。また、模擬減肉試験体を用いて減肉部の計測を行い、非接触で健全部と減肉部の厚さ計測を行った。
骨粗鬆症を診断するため海綿骨内の骨量を定量的に評価する手法QUSでは,踵や手首に超音波振動子を接触させて海綿骨内の音響特性を計測する.本研究では,振動子と被検査部位を接触させずに生体内の音響特性を計測する手法について検討を行っている.生体を透過した空中超音波に効率的に送受信するため,生体内と空気中との音速差による屈折を考慮した角度に送信・受信用振動子を傾斜させる必要がある.本報告では,まず振動子とファントムとの間に発生する多重反射を用いてファントム側面の傾斜角度を推定する手法について述べる.そして,ファントム側面に対して振動子の角度を変化させた場合の透過波の振幅や算出された音波伝搬速度の変化について評価を行う.
著者らは,空中において音波により物体を可視化する音響カメラについて,空間分解能よりも周波数情報に重点を置いた検討を行っている.本稿では,送波用1次元トランスデューサアレイと受波用1次元マイクロホンアレイをT字状に直交配置した可視化のためのハードウエア構成,および複数の周波数情報の表示方法を検討した.送波・受波アレイの指向性制御を行い,送波ビーム幅約40 mm (波長の約4.7倍),受波ビーム幅約80 mm (波長の約9.4倍)を得ている.38.0 kHz,39.5 kHz,41.0 kHzの3つの周波数を用いてピンポン球の可視化を行い,それぞれにR,G,Bの3色を割り当てることで,3つの周波数情報を1つの画像として表示した.
ハイドロフォン走査による超音波音場の3次元測定は膨大な時間を必要とする.これは,音響ホログラフィを用いて2次元空間の圧力分布データから3次元分布を再構成することで削減できる.しかしながら,その2次元圧力分測定にも数時間程度を要する.そこで,位相コントラスト法を用いた光学測定を音響ホログラフィの入力データとする手法を開発し,ハイドロフォンを用いた結果と良く一致することを示した.
軟骨の変性や疾病を評価する手法の確立には,正常な軟骨特性を模擬したファントムが必要である.本研究では,レファレンスとなる軟骨ファントムの作製を念頭に,ファントムの組成と音響特性との関係を調査した.また他物性の計測を行い,組成及び音響特性との関係についても調査した.
二酸化チタン(TiO2)粒子を含む溶媒に対し超音波を照射したときに発生する活性酸素種(ヒドロキシルラジカル,OH?)をがん治療や感染予防に応用する研究が行われているが,治療条件の最適化のためにはOH?発生の機序を明らかにする必要がある.本研究では集束超音波を用いてアナターゼ型/ルチル型TiO2粒子懸濁液,およびAl2O3粒子懸濁液に対する集束超音波照射によるOH?の発生特性を評価した.結果として,すべての懸濁液でOH?の発生が確認された.このことから,キャビテーション閾値の低下がOH?発生の原因となっている可能性や,TiO2だけでなく,他の粒子も利用できる可能性が示唆された.
ヒトの内耳には血液蝸牛関門(Blood-Cochlea Barrier,以下BCB)が存在し,毒性の強い薬や物質が簡単には内耳へ移行しないような働きが知られている.内耳にBCBが存在するのと同様に,脳内には血液脳関門(Blood-Brain Barrier,以下BBB)がある.近年では,超音波によるBBBの開口実験が行われ,薬剤と超音波造影剤を注入し超音波照射を行うとBBBの薬剤浸透性向上が確認された.本研究では,BCBによって治療の効果が十分に発揮されていない感音難聴の薬剤に対し,超音波併用による新たな薬剤治療手法の提案を目指す.ここでは内耳治療のための超音波照射手法に関して検討を行った.計測結果から,照射部分に十分な超音波エネルギーが到達することを確認した.
With the development of the society, the requirement of high quality fruits and vegetables are also becoming higher. Therefore, the sorting and grading of them are important. The firmness of them is an important criterion to sort fruits and vegetables. We have developed a non-contact measurement system for firmness of fruits and vegetables based on focused ultrasonic wave. We employed an airborne ultrasonic transducer as a source, which produced burst plane waves. The waves would be focused by a parabolic reflector. The focused ultrasound produced acoustic radiation force, which would vibrate the surfaces of samples. At present we used the laser Doppler velocimeter to detect the vibration velocity then we calculated the displacement on samples’ surfaces. In this report the temporal changes in maturity states and viscoelastic properties (maximum displacements, resonance frequencies and damping factors) of about 10 kinds of samples were observed. And the relationships between the changes in ripeness and viscoelastic properties were discussed.
近年、自動車における安全安心の志向が高まっており、衝突被害軽減機能に代表される予防安全システムが発展、普及している。空中超音波センサは、比較的安価であること、また車載用途に関しての法規制がなく、利便性に優れていることなどから、駐車支援システムの障害物検知装置に利用されている。駐車支援システムでは、空中超音波センサが自動車のバンパ部に設けた貫通孔を介して取り付けられるため、バンパ部に貫通孔を設ける加工が必要となり、生産性が低下する。また、空中超音波センサの放射面が外部に露出するためデザイン性が低下する。このため、バンパ部に貫通孔を設けず、バンパ裏面に空中超音波センサを直接取り付ける構成が求められている。しかしながら、この構成では、空中超音波センサの指向特性は、バンパ部の影響を受けることが予想される。本報告では、バンパ裏面に取り付けた空中超音波センサの指向特性に関して検討したものであり、その制御方法について提案する。
き裂の非破壊検出方法の一つに,赤外線法と超音波法を組み合わせたサーモソニック法がある.この方法は,大振幅の超音波照射により励起されるき裂面の局部的温度上昇を,赤外線サーモグラフによる熱画像で測定する方法である.この方法の利点として,熱画像でイメージングするため接触式超音波法で行うような探触子の操作が不要となり,計測時間が短縮できることがある.しかし,対象の表面状態によっては超音波を入射することが困難であるため,この方法が適用できない場合も考えられる.筆者らは,このような課題に対して超高強度空中超音波を用いて対象を非接触加振する方法を提案し,研究を行っている.本報告では,き裂が入ったセメント板試験片に対して,高強度空中超音波による非接触サーモソニック測定を行い,提案手法によるき裂のサーマルイメージングを試みている.
現在、車や電車のボディの溶接にスポット溶接と呼ばれる溶接法が使用されている。スポット溶接には溶接部のひずみが少なく、溶接速度が速い等の特徴がある。この溶接方法の溶接部の強度は溶接部径により決まると言われている。現状、この溶接部径の検査手法は引張強度測定等の破壊試験が主流である。しかしながら、破壊試験は抜き取り試験しかできない問題がある。そこで、我々は音波とレーザドップラ振動計を用いた検査方法を研究している。検査方法は対象を音波で励振して、溶接部周辺の振動の位相差から溶接部径を推定する。この測定方法の利点は非破壊かつ非接触に測定出来る事である。
空中超音波を用いて非接触で試験体の厚さを計測した。試験体の厚さは共振法により計測し、受信信号の周波数を求めることで厚さを算出した。鋼板の厚さを共振法で計測し、周波数を変えることでより薄い鋼板の厚さを計測できた。送信信号のチャープ比を変えて計測し、チャープ比を変えることで計測範囲、精度が変化することを確かめた。曲面において共振法で厚さ計測を行い、アクリル試験体で0.1[mm]の厚さ変化を共振法により観測した。
現在の電車のドアにおける戸挟み検知装置では,鞄や紐などの挟まりを検知できないという問題がある.本報告では,戸先ゴム内部の音の伝搬特性を用いて戸挟みを検知する手法を提案した.まず,挟み検出装置への応用のため,従来よりも高速で計測するためのシステムを構築した.また,信号処理によって音源付近の不感帯を除去した.さらに,2000 mm 以上の長距離でも SN 比が 3 以上の感度で挟み検出が可能となるように両端音源とした.実際に利用されている全長 2200 mm の戸先ゴムを用いて両端に音源を設置して挟み検出センサとして機能するか検証した.提案する現状のシステムを用いることで,100 ~ 2100 mm の範囲の 1 mm 変位を数秒で計測し,合計9秒程度と検出時間を大幅に改善できることを示し,戸先ゴムへの応用可能性を示した.