脂肪肝や肝硬変など,超音波減衰の大きさが診断においてひとつの指標とされることもある.超音波の減衰量は周波数に比例するため,受信信号中の2つの周波数成分の信号レベル比を求めれば減衰量を計測可能であるが,非線形伝搬による2次高調波の発生がこの計測の正確さを阻害する.そこで我々は,位相の異なるパルスを2回送受信し,両者の差分を行う処理を考案した.これによって,2次高調波を除去することができ,減衰量を精度よく定量的に評価できる可能性がある.また,2つの周波数信号比をカラー画像表示することで,微小な減衰の違いの視認性が向上した.
超音波造影イメージングにおいて,マイクロバブルと組織の弁別は重要である.一般的なマイクロバブルの映像化には2次高調波成分が利用されているが,組織構造からも2次高調波が発生する為,正確な染影評価が出来ない場合がある.特に送信音圧が高いほどその問題は顕著となる.今回我々は,高調波成分と基本波成分の比(Harmonic-to-Fundamental Ratio,以下HFR)に注目し,組織エコー抑制に対する有効性に関しての基礎検討を行った.散乱強度の異なる領域を含むファントムを用いた実験において,2次高調波成分を映像化する従来手法に対して,HFRは空間的に散乱強度が不均一な組織信号成分の影響を抑制可能であった.
非可聴つぶやきなどの体内を伝搬する音を検出する事に関して、従来思考の接触型マイクロホンより、超音波ドプラシステムを変位検出器ないし振動検出器として援用する事の方が諸般お点において優れている事を紹介している。
本報告では,マルチGPU (Graphic Processing Unit) システムを用いた3 次元音場シミュレーションを行っている。GPU プログラミングにはCUDA(Compute Unified Device Architecture), 並列化にはOpenMP を使用し,最大4GPU で並列化している。3 次元音場をディジタルホイヘンスモデル(DHM) 法とFDTD法でモデル化した場合について,計算性能について評価を行っている。数値実験の結果,4GPU におけるピーク性能として2.18GFUPS (Field Update Per Second),26.2GFLOPS が得られた。
我々は複数参照波を用いた周波数領域干渉計法による高分解能医用超音波イメージング法を提案する.周波数領域干渉計法にCapon法を適用したイメージング法において、目標からの反射波の波形と参照波の波形が異なるとき分解能が劣化する.そのため、2つの基準波から複数の参照波を合成し、最適な参照波を用いてイメージングを行う手法を提案する.提案法では0.05mm間隔で存在する2層の境界を識別できることが実験により示された.
超音波パルス透過法を用いて,ウシ大腿骨皮質骨中の超音波伝搬を検討した.3 頭のウシ皮質骨を円柱状に加工し,Axial-Tangential 平面とAxial-Radial 平面の2 平面を伝搬する音速異方性を詳細に調べた.その結果,最大縦波音速の方向が骨軸から少しずれていることがわかった.また,極点X線回折測定により,骨質の指標であるハイドロキシアパタイト(HAp)結晶の配向を測定したところ,結晶の傾いている向きと最大音速の方向が一致し,両者の間には強い相関が見られた.しかし,後方部においては他の部位より相関が低く,結晶配向に加え,微細構造の影響も考えられた.
本研究では,パルス圧縮と合成送信開口(STA)を複合させたイメージングにおいて,さらなる画質向上を実現する信号波形の提案を行う.従来の手法では,パルス圧縮が可能で,直交性の高いM 系列変調信号が主に利用されてきたが,M 系列変調信号の自己相関・相互相関に現れる雑音が画質劣化の原因となっていた.そこで我々は,マルチキャリア信号の各サブキャリアの振幅と位相をパラメータとした遺伝的アルゴリズムを設計し,相関雑音を最小化する信号を合成した.その結果,1000 世代目の最良個体では,M 系列変調信号に比べ,相関雑音を7.6 dB 抑えることに成功した.また,シミュレーションによる比較の結果,画質の改善も確認された.
超音波B-Flow 血流映像法の最近の進歩により、ミリオーダの肝辺縁の末梢系微小血流を造影剤を使わずに高精細に映像化できるようになった。本研究では、B-Flow 血流映像法によって描出される肝辺縁の血流動態情報をもとに、肝硬変に伴う病変の進行度合いを定量評価するための特徴抽出処理について検討した結果を報告する。
厚さが異なる2 MHz に共振周波数を有する圧電素子と6 MHz に共振周波数を有する圧電素子を接着して,複数の共振周波数を有する多共振型振動子を開発した.この振動子から放射される超音波の周波数特性を解析した結果,周波数1.5 MHz,3 MHz,4.5 MHz,6 MHz,7.5 MHz の成分が卓越しており,これらの周波数の超音波ビームが形成されていることを測定により確認した.提案手法の有効性を検討するために,寒天ゲルファントム及び豚肉・肝臓の映像化を行った.前述の複数の周波数帯域においてB モード画像を映像化した.また,これらの複数の周波数の画像を重畳することで,スペックル等の干渉性の雑音を低減できることを示して,本手法の有効性を確認した.
音響工学の基礎教育において、共鳴、閉空間における定在波、障壁まわりの回折、境界面における反射・拡散、種々の形状をもつ室内における音の伝搬などの音響現象を可視化して提示することは学生の理解を助ける上で有効である。そのために、筆者らは古典的な物理実験手法と数値シミュレーションの手法を用いて基本的な音響現象を可視化した教材を作成している。また、音響障害物まわりの音の伝搬や任意の形状をもつ室内における音の伝搬をPC画面で簡易に計算するソフトウェア(数値無響室)の開発も行っている。
我々は通常の超音波エコー装置を用いて,反射超音波の位相を巧みに用い,心臓の各部分の微小振動の計測できる手法を開発した.この計測方法を心筋に適用したところ,「心臓の弁閉鎖に伴って心臓壁上に振動(20-60Hz 周波数,数μm の微小振幅)が発生し,それが心臓壁に沿って伝搬する現象」と「心筋を電気的興奮が伝搬する際に微小振動が発生し伝搬する現象」を見出した.特に後者は,心臓収縮を引き起こす興奮(心電信号)が心臓壁を順に伝搬する様子を可視化できる可能性を示している.CT,MRI,超音波エコー装置は,心臓の精緻な断層像や収縮拡張に伴う拍動を3 次元で可視化できるが,空間分解能(数百μm)や時間分解能(数十ms)は,肉眼で把握できる程度に止まる.ここでの成果は,時間分解能を2ms,空間分解能を1μm 以下まで向上させ,従来の診断装置にはない高精度な計測を可能にした側面がある.今後,心筋の臨床診断等に広く利用されることが期待されている.
厚さの異なる圧電素子を接着した構造とすることで,複数の共振周波数を利用できる振動子について検討した.特定の周波数が卓越しない均等な周波数特性となるよう,基本モードの周波数成分を抑圧するバッキング層を設けた.振動子をインパルス駆動して,焦点付近においてハイドロフォンで測定した波形が広帯域で平坦な周波数特性を有していることを確認した.また,周波数2.0 MHz,3.0 MHz,4.0 MHz,5.0 MHz,6.0 MHz で超音波ビームを形成した.提案手法の有効性を検討するために,ファントムの映像化を行った.前述の複数の周波数帯域においてB モード画像を映像化した.また,これらの複数の周波数の画像を重畳することで,スペックル等の干渉性の雑音を低減できることを示して,本手法の有効性を示した.
発電プラントや橋梁等を構成する金属部材を検査するにあたって,アレイ探触子を用いた超音波探傷が導入されつつある.本研究では,リニア・マトリクスアレイ探触子で得られる欠陥エコーを基に金属内部の欠陥形状を再構成する逆散乱イメージング法(ISIM) について述べる.本手法は,計測された欠陥エコーをフーリエ変換して周波数領域で画像を合成するものであり,解析ルーチンには多次元FFT を用いているため高速イメージングが可能である.ここでは,電子スキャン装置を用いて超音波計測を行い(金属中の弾性縦波を利用する) ,ISIM の実験的検証を行った結果を示す.実験では,ボイドを模擬した欠陥として横穴を,き裂を模擬した欠陥としてスリットをそれぞれアルミニウム被検体に作成し,これらの2 次元あるいは3 次元形状の再構成を行った.
音/音場については見えないが故に体験に頼る部分が多く,正確に把握するまたは正確に人に伝えるのが難しいのが現状となっている。上記のことを鑑み,簡単で直感的な音場の観測手法として音を光へと変換し観測する手法を検討している。MEMS マイクロホンとLED を用いて小型の音-光変換素子を構成し、定常的な音場の観測に加えて,非走査で高速に記録する事により,音波の伝播状態を可視化する手法の検討を行っている。今回,提案する可視化手法について,手法概要,基本的特性,定常的な音場から過渡的な音場に至るまでの観測結果について報告する。
我々は観測者が直感的に音場の把握ができリアルタイムな観測が可能であるシステムとして音響テレビと呼ぶシステムを提案する。音響テレビはある音場での音源の位置,分布,動きをテレビ画面上にリアルタイムで表示するものである。それぞれの音の強度は明るさで,音響スペクトルはカラー成分で表示される。さらに,音響撮像面前に取り付けられたCCDカメラからの光学画像信号と重ね合わせて表示することでより具体的な音源位置推定が可能である。音響テレビを用いて環境音の測定を行った結果,自動車のブレーキ音,新幹線の走行音等を確認することができ今後の有用性を見出すことができた。
近年,自動車室内音の開発においては,快適性の向上と車両重量の軽減を目的として,室内音の品質向上をより少ない重量で達成することが求められている。その為には,騒音の発生源を特定することが重要であり,様々な手法が提案,実用化されている。本稿では,室内音の発音部位の方向探査を目的に,音の情報を時系列で視覚的に表示することができる手法について,実験的に検討した結果を報告する。
病室では、病人が治療・静養のための空間として、静寂が求められるべきである。一般的に我々は当然であると考えられていた事が、現況の病院では事情が違う事を、実際の医療現場で働く先生から教えられた。そこで本報では、病室の中で特にうるさいといわれる小児ICU内で騒音測定を行った。また併行して音源探査システム「ノイズビジョン」を用いて騒音源の可視化を行うことで、考えられる騒音源の中で寄与の高いものを表すことにした。そして騒音シミュレーションソフト「GEONOISE」を利用し、室内での騒音の低減化に関する基礎的検討、及び騒音源の音の干渉を考慮した場合の室内における音圧分布について算出した。
ブラインド信号源分離は、事前情報を得ることなく観測信号から音源信号を推定する技術として注目されている。本研究では、ブラインド信号源分離の一手法として、信号源から観測点までの時間差を考慮し、さらに観測信号をウェーブレット変換することにより、複数ある未知の信号源を完全に分離するのみならず、各信号源の位置も特定する手法を提案する。さらに信号源位置および観測点位置を設定し、数値実験を行うことで本手法の有用性の検証を行なう。
マフラー改造等により走行中に高騒音を発する車両の取り締まりに関しては、現行の街頭検査では制約が多いため、国として有効な対策が求められている。また、これまで段階的に車両単体騒音の規制値強化が行われてきたにもかかわらず、環境基準達成率の大幅な改善はなされておらず、その原因については明らかになっていない。そのため、交通流中において、個々の車両から発せられる騒音を測定する必要がある。このような背景を踏まえ、本研究は、走行中の車両から発せられる騒音を常時監視し、交通流中から高騒音車両を判別可能なシステムの開発を目的としている。本稿では、既存の音源定位法を周波数帯域によって使い分ける音源定位法を提案し、テストコースにて走行する車両に対して検証試験をおこなった。
有限インピーダンスを有する地表面上の音波伝搬の挙動を理解するため、周波数領域の解析解を逆フーリエ変換することにより時間領域の解を求め、音圧分布を連続して描画することにより動画として表現した。最初に超過減衰などを計算して地面反射音に関する一般的な性質を整理した後、動画表現により地面波の挙動について考察した。地面波は地表近傍で強く、鏡像反射音を平面波反射係数で表現することに起因する矛盾を補填するよう作用することが示された。また、表面波と呼ばれる特殊な波が発生する状況下では、地面波の伝搬速度は音速より遅くなることも示された。
本研究では,CIP 法を拡張し一般形エルミート補間を利用することで,Generalized CIP 法による音波伝搬解析を提案した.マルチサポートポイントを用いる手法としてGCIP(7,1) 法及びGCIP(5,2) 法の数値誤差の評価を行い,従来法に比べて数値分散及び数値散逸が小さいことを明らかにした。特に,数値散逸は従来のCIP 法に比べて格段に改善されることがわかった.また,GPU(Graphics Processing Unit)を使用した高速化の検討を行い,CPU の8 スレッド並列化に比べても10 数倍以上の高速化が可能となることを明らかにした.
MUSIC(MUltiple SIgnal Classi cation) 法は,超音波や電磁波の伝搬環境を高分解能に推定することができる手法として知られている. 本論文では,従来手法よりも少ない計算量で到来方向・伝搬遅延時間を同時に推定することができる新しい手法としてTSaT-MUSIC 法(Time-Space additional Temporal MUSIC) を提案する. 本論文ではTSaT-MUSIC 法を用いて超音波音源位置推定のシミュレーション実験,ならびに実環境での実験を行った.その結果,提案手法がいずれの実験でも高精度で推定を行えることを示せた. 最後に,提案手法を超音波イメージングに応用するにあたっての課題について議論する.
本論文では,M 系列信号とマルチキャリア信号をそれぞれ用いて行った,合成送信開口(Synthetic Transmit Aperture: STA) イメージングの実験結果について報告する.STA とは角度分解能を向上させるための手法であり,M 系列信号を用いて実装することができる.しかしこの方法では,M 系列符号間の相互相関によって画質が劣化する問題があった.そこで我々は以前の報告で,相関雑音を抑圧できる手法として,最適化したマルチキャリア信号を用いる手法を提案した.本稿では提案手法を用いて実機による実験を行い,画質等についてM 系列信号と比較した.その結果,シミュレーションと同様,実測においても,提案手法によって画像中のレンジサイドローブをより抑圧できることが示された.
本研究は多共振型圧電振動子から送波される超音波の広帯域な特性について,等価回路による数値計算,および試作振動子から送波される超音波の測定を行って検討した.その結果,振動子の前面と背面にλ/4の整合層を接着することによって,広帯域な超音波を送波できることを確認した.また,周波数帯域の上限と下限は,それぞれ,圧電振動子および共振体の厚みで決まる基本共振周波数となることがわかった.
循環器系疾患の主因である動脈硬化症は,血管の内側(内皮)から進行するとされている.さらにその初期段階では,血管中膜を構成している平滑筋細胞のタイプが変化することも報告されている.ゆえに,動脈硬化症の早期診断のためには,内皮細胞の機能や平滑筋の力学的特性の計測が重要となる.本報告では,我々が開発した粘弾性特性計測法において必要となる,超音波データにおける動脈壁の境界(内腔−内膜境界(LIB),中膜−外膜境界(MAB))の検出法について検討した.さらに,従来は血管長軸断面において内中膜領域の粘弾性特性を計測していたが,より安定した計測の期待できる橈骨動脈短軸断面に適用した.その結果,最適な境界位置の客観的に検出することができ,血流依存性血管弛緩反応時の橈骨動脈粘弾性特性変化計測の安定性が向上した.
心筋の2次元変位の推定法として, 相関関数等を用いたパターンマッチングが主流である. しかし, 相関係数を算出する際の重要なパラメータである関心領域の大きさ等の最適化は行われていない. また, 算出された心筋速度のフレームレートは約200 Hz ( = 1/(5 ms)) 程度である. しかし, 心筋の収縮弛緩の遷移過程の中には10 msより短い時間内で起こる現象もあり, その遷移過程を連続的に観察するためには高時間分解能計測が必要である. 本報告では, 心臓からの超音波RF信号のフレームレート1024 Hzで計測した. また, 模擬実験においてシリコーン板の変位を推定し, 推定変位の二乗平均平方根 (RMS) 誤差が最小となる関心領域を最適値と決定した. 決定した最適値(7.1 deg×1.65 mm)を用いて, 心臓壁2次元変位と厚み変化速度を計測した結果, 一般的な心臓壁の挙動を表すことができた.
空中における音響センシングは周辺物体の位置,形状,材質,運動などのさまざまな情報を取得できる方法であると考えられている。現在,自律移動型ロボットの障害物探知などを目的として周囲環境センシング技術の研究,開発が広く行われているが,生活空間で空中音響センシングを利用する場合,人は非常に重要なターゲットであるため,音波反射特性の把握が重要である。本稿では,人を対象とした音響センシングのための基礎として,人ターゲットからの反射波中に観測されるターゲットの振動要因について検討した。用いた信号は,ノイズ抑制のために,M 系列によりキャリアを位相変調するM 系列変調法により生成したM 系列信号である。人は直立静止状態でも細かな振動が観測され,その振動振幅は数mm,振動周波数はおよそ0.2 Hz であった。正面と背面からの同時計測により,この振動は体の厚み変化によるもので,呼吸による運動を検出していることが明らかとなった。
近年、スキャニング振動計(SLDV)を用いて地表面の振動分布を二次元的に測定することで、地表面から10 cm程度までの極浅層領域の探査が行えることが確認され始めた。一方、世界中で残存地雷が問題となっており、新しい探査法が模索されている。そこで本研究では地雷を主なターゲットとした、音波振動とSLDVを用いた極浅層地中映像化について検討している。今回は埋設物の応答周波数帯を用い、検出や識別を行う手法について検討した。結果としてクリアな映像化が行え、検出および識別が可能であることを確認した。
生体中の各種組織の動きを3次元で高精度に認識することは,診断や治療の現場において関心の高いテーマである。その一つである筋運動は筋電図を用いて計測を行うことが主流であるが,計測範囲が狭く複数の運動を同時に計測することが難しい。そこで超音波診断装置によって時間的に連続な3次元ボリュームデータを取得し,3次元オプティカルフローを適用することで筋運動を3次元的に解析することを試みた。
肝病変の定量診断のためには,肝臓組織の変化と画像変化の関係について検討することが重要となる.しかし,実画像には大きな血管などの組織情報が混入し定量診断に有益な情報を検討することが困難である.そこでわれわれは,肝病変の進行に伴う散乱体分布変化の表現法を提案し,その散乱体分布に対し超音波を照射することで作成した超音波断層画像と生体組織の関係を詳細に検討してきた.本報告ではこれまで提案してきた組織変化のモデルを改良し,種々の肝病変を表現するために必要なパラメータについて検討を行った.種々の病変の進行に伴う肝臓の三次元散乱体分布の変化が良好に再現し,三次元構造を反映したシミュレーション画像を得ることができた.
我々は超音波診断装置に付属のプローブをアームで保持し,乳頭を中心に回転走査を行う超音波回転走査器を開発して,乳腺画像の採取・表示システムを提案してきた.本システムによれば,再現性が高く安定な画像採取が可能であり,また医師による効率的なレビューを可能とする画像提示が行える.提示画像の生成にあたっては,人間の目視による確認が有効であるものの,集団検診での使用を考慮した場合に時間の面で不適であるため,本稿では画像処理による自動化手法を提案する.本手法は,乳房表面の傾きが滑らかであることを利用しており,計算量の削減と画像生成誤差の軽減が可能である.実際の乳腺画像に対する処理結果を用いて,提案手法の有効性を確認する.
コウモリは自ら発する超音波を用いて周囲環境を把握するエコーロケーションによって,暗闇においても飛行する他のコウモリや洞窟の壁などといった障害物を回避することができる.本報告ではマイクロホンアレイシステムおよびテレマイクを用いて,障害物が設置された観測室内を飛行するコウモリの水平方向のパルス放射方向,放射タイミング,放射音圧と飛行軌跡を計測・分析した.その結果,コウモリは同じ障害物環境下を複数回飛行することで,飛行軌跡を平滑化させ,パルスの放射頻度や音圧を減少させることがわかった.また,軌跡を障害物の配置の複雑さに依らず,コウモリの注視方向と飛行の旋回率の間には先行時間0.12 秒で一定の制御関係が成り立つことがわかった.
胎児監視は、特に胎児心拍監視に超音波ドプラ方式を採用する物が、医療上の方式技術として臨床現場に定着してかれこれ30 年ほどは経過したかと思われる。その後自動診断、テレメトリ?、ネットワーク連携、等々の発展があったが、信号採取や信号処理の技術としてはやや伸び悩み、ないしはさらなる進歩やブレークスルーへの努力が等閑に付されているきらいがある。本発表においては標記の通りフロントエンド信号採取装置の軽薄短小簡素化という方向で、最近の汎用技術またPC などの汎用機器への載り合わせがどう言う形で可能か、若干の実験とともに報告する。以下、学問の場にはやや齟齬かと思うが、装置実現のための非常に具体的な、抵抗、コンデンサ、トランジスタ各1個の段階までの具体論を呈上する事をお許し願いたい。
弾性表面波の非線形現象に関する研究に入ったのが今から約40 年前でした.爾来,筆者は弾性表面波の非線形現象に関する研究に従事し,10 種の非線形現象を解明した.さらに,新しい強誘電強弾性体であるTa2O5圧電性薄膜を発見した。その後,リニア型高速熱処理法の確立,SAW アシストによる薄膜位相格子の作成などを経て,超高安定周波数温度特性のラム波型弾性波素子基板の発見を行った.弾性表面波研究からラム波研究にいたる過程で研究上得た経験や研究に対する考え方などについて持論を述べる.
筆者は1971 年東北大学清水洋教授のご指導のもとで研究生活を始め,1985 年から1996 年の間,東北大学電気通信研究所の山之内和彦教授のもとで研究と教育に従事した.1997 年から玉川大学に移り,研究,教育,学務に従事してきた.本稿では,この間に携わってきた弾性表面波と漏れ弾性波の応用研究について述べたい.
筆者が学生時代に行ったフェライト膜の作製とそのVHF 帯電気音響変換子への応用に始まり,磁歪物質上を伝搬する弾性表面波(SAW)に関する基礎実験等を経て,その後,長期間に亙って携わったSAW デバイスに関する研究の一部を紹介し,その時々の経緯について述べる。これらの思い出話を通じて,筆者が,研究の何処に難しさを感じ,何処に魅力を感じながら65 歳の現在に至ったかを感じ取っていただければ幸いである。
40 年間にわたり従事してきた超音波関連の研究を紹介するとともに研究テーマと関連して構築してきた研究方法の試論を紹介する。