柔軟性超音波探触子を開発し、曲面から試験体を計測した。ソフトプローブ、フレキシブルリニアアレイプローブ、フレキシブルマトリクスアレイプローブの3 種で溶接部やパイプエルボの欠陥と減肉の計測、ファントムの画像化を行った。ソフトプローブでは溶接部やエルボの厚さ計測で波形取得、リニアレイプローブでは溶接部やファントムのB モード画像取得、マトリクスアレイプローブではパイプエルボ減肉のB モード画像やC モード画像の複数断面の画像を取得した。また、医用超音波への応用として歯肉の厚さ計測、手首ファントムの画像化を行った。
各種生体組織の病理学的な構造と音響学的な構造の関係を細胞以下の微小なスケールで理解する為に,中心周波数が数百MHzの超高周波超音波を使用して微小組織の音響特性の高精度な解析を行っている.その際,高周波化が進み空間分解能が向上する一方で,試料表面の形状が音速解析に与える影響が無視できなくなる可能性が考えられる.そこで本検討では,FDTD法を用いた波動伝搬シミュレーションを行い,ARモデルによる波形分離を介した音速解析における試料表面形状の影響について検討した.結果から,焦点付近の試料の平均的な厚さが充分に確保されていない場合には音速の算出が確認された.また,試料の厚さが充分確保されている場合においても,試料表面の凹凸の状況によって音速評価の精度が0.3%程度低下することが確認された.
超音波を用いた組織性状を定量的に評価する手法の1つとして,振幅包絡特性に着目した解析手法が挙げられる.高周波の単一凹面振動子で計測した場合,音軸方向に解析可能な範囲が制限されるなどの問題があった.アニュラアレイ型のプローブを計測系に適用することにより,解析範囲の拡張が期待されるが,ビームフォーミングが解析に及ぼす影響については検討が不十分である.本報告では,5つの素子で構成されている中心周波数が20 MHzアニュラアレイ型のプローブを用いて,平均半径が60 μmのガラスビーズを含む寒天ゲルファントムと正常および脂肪肝モデルの摘出ラット肝を対象に計測を行った.取得した各データから,散乱体の数密度を評価可能な仲上分布モデルを用いて散乱体構造を評価した.寒天ゲルファントムの結果から,信号強度が十分に担保されている範囲では,ビームフォーミングを行なった合成信号が振幅包絡特性解析に有効であることが示唆された.また,生体組織においても広範囲にわたり高精度な解析が可能であることが示唆された.
現在,提案されているヒト浮腫定量診断手法は計測に時間を要するなどの課題がある.そこで瞬時に計測ができ,軟部組織の検出能が優れている超音波を用いた定量診断手法に着目した.浮腫を再現するために,水分量の異なる寒天模擬ファントムを作製した.寒天模擬ファントムに超音波パルスを照射し,反射波を観測した.得られた波形から音速を求め,測定結果の比較検討を行った.また超音波画像診断装置を用い,寒天模擬ファントムと水の境界面及び断層面の確認を行った.
平行波や拡散波を用いた高時間分解能超音波計測法の研究の発展に伴って, スペックルトラッキングの粒子速度(粒子変位)推定の精度検証が再度必要である. 本研究では, 相関係数を用いたスペックルトラッキングの推定精度検証を行った. 超音波ファントムを一定速度で平行移動させ、これを高時間分解能超音波計測法で計測を行った. この際に, RF信号, 検波信号, 包絡線の相関係数あるいはその複素相関係数を用いて,それぞれにおける粒子速度の推定精度を比較した.
Bモードエコー像は病気の診断に広く用いられている.しかしながら,Bモードエコー像は散乱体および異種間組織界面からの反射強度を画像化したものであるため,得られる情報は基本的には形状のみであり,病変の判断には医師の経験が必要となる.本研究では,Time Domain Reflectometry (TDR)法をもとにヒトの頬皮膚のBモード超音波エコー像から奥行方向の音響インピーダンス像を作成した.さらに,加齢による真皮乳頭層の老化を評価したところ,年齢によって認識度合が異なる結果が得られた.この方法がin vivoでの皮膚評価に応用できることが示唆された.
近年,超音波を用いた骨折治療法としてLow Intensity Pulsed Ultrasound(LIPUS)が注目されている.LIPUSを用いて骨折部位に超音波を照射すると,骨折の癒合期間が短縮することが報告されている.しかし骨を含む生体中の音波伝搬が複雑であるにも関わらず,現状のLIPUSでは体内の音場が考慮されておらず骨折部位近辺に超音波を照射しているだけである.そのため超音波が効率的に照射されているとは言えない.そこで本研究では,時間反転波に着目して骨中における効率的な音波集束手法について検討した.初めにHigh Resolution-peripheral Quantitative CT(HR-pQCT)データを用いて3次元橈骨モデルを作成した.そしてFinite Difference Time Domain(FDTD)法を用いて,シミュレーションによる音波伝搬の検討を行った.まず作成した橈骨モデル中の仮想的な骨折部位から音波を送波し骨表面で受波した.次にその観測波形を参考に作成した時間反転波を骨外から送波し,仮想的な骨折部位での音波集束について検討した.その結果,骨折部位で音波の集束が確認され,時間反転波を用いた手法が有用であることがわかった.
当研究室では、医療応用を目的とした小型モータである、コイル状ステータ超音波モータ (CS-USM:Coiled Stator Ultra-Sound Motor)の開発を行い、これまでに様々なタイプのCS-USMの報告を行ってきた。しかしながら、コイル状ステータに用いる音響導波路上の振動伝搬については十分な検討がされていない。本稿では基礎検討として、2つの圧電振動子と音響導波路の3次元モデルリングを行い、有限要素法を用いて直線状の音響導波路に伝搬する弾性波の解析を行った。
HIFUなどの高出力超音波を使用した超音波治療機器の安全性が議論されている。高出力超音波の生体への安全性評価のためには高出力領域の超音波パワー標準を確立する必要がある。我々は,高出力領域の超音波パワー標準としてカロリメトリ法を検討している。本稿では,水の溶存酸素濃度の違いがカロリメトリ法を用いた超音波パワーの測定値へ与える影響について述べる。
開発中の水中音響ビデオカメラと音響マーカを用いた水中構造物の強調画像について,以下の項目を報告する。(1) 開発中の水中音響ビデオカメラの映像諸元と撮像動作,(2) 音響マーカ使用の構想,(3) 音響マーカとして用いたコーナーキューブリフレクタの再帰性反射確認実験,(4)コンクリートブロックの遠位側端点の強調を目的とした野外実験。
本研究では, 光学顕微鏡のステージ上に超音波顕微鏡の超音波送受信システムとスキャンシステムを構成することで, 生きた細胞の形態観察と音響・力学的解析を可能とした. また, 平面直線近似と平面曲線近似を併用した基板面補正を実装することで,基板面の傾きと走査装置の上下動の影響を低減した. さらに, 厚さ・音速解析では, 時間分解法の結果をパルススペクトル法にて補正することで, パラメータ算出精度向上を図った. 精度測定の結果, 厚さ・音速が低く推定される傾向があることが示された. しかしながら, 基板面補正は傾きと上下の変位を解析可能な水準まで補正できており,上下動の影響を受けたデータでも解析が可能であることが示された.
本研究は光と超音波を用いて, 皮膚を対象とした新たなイメージング手法を提案するものである. 光干渉断層法と高周波超音波で同軸計測を行い光干渉断層法で分解能の補間を行い,高深達度,高分解能,非侵襲的に測定を行なう.分解能の補間方法として,光干渉断層法の測定データを用いて相対的な屈折率を算出する手法の提案した.この手法を用いて人工皮膚とヒト皮膚のデータに対しデータの適応を行なった.結果として,人工皮膚と水の境界,人工皮膚の内部の可視化が可能になった.また、ヒト皮膚に対し,角質と表皮,真皮における屈折率の違いを確認することができた.屈折率データを超音波画像に適用することにより皮膚画像の改善ができ,本手法の有効性を示した.
小型実験動物では脳実質の血流変化を超音波で画像化するfunctional Ultrasound imagingが可能となっている。また、新生児への応用も試されている。獣医領域でも頭蓋内疾患は多く、超音波による病変の検出、および頭蓋内での血流情報は診断に非常に有益である。今回は超音波診断装置で頭蓋内病変の検出を試みた。頭蓋骨の薄い犬種を対象に検討を行い、一部の疾患ではMRIと同様に病変を検出できた。しかし、画像の質はあまり高くなく、血流情報の取得も困難だった。
超音波診断装置は、画像診断技術として近年ますます重要視されている。有望な技術としては、光音響イメージング等のイメージング技術、ポータブル化技術、cMUTのプローブ技術、AIやビックデータを活用した先進技術などが挙げられる。日本は、多くの企業が技術シーズの創出や特許出願に積極的であるという強みを維持しつつ、上記したような技術に注力することが望まれる。また、グローバル展開を進めていくために、自社製品保護とパテントクリアランスの両方の観点から、事業化を意識した特許出願戦略を練ることも望まれる。
縦波の音速は、疾病の検出等に有用な指標として期待されているが、圧縮率や複数の因子の影響を受けるため、その解釈は複雑である。本研究では、解釈のための一検討として、軟骨組織を用いたマルチモーダル測定を行い、音速との相関性を調べた。
近年、医療・農業・産業分野において非接触測定への期待が高まっている。しかし、柔らかい物質の粘弾性特性を非接触で測定する研究はほとんどない。本報告では、空中超音波を用いて、非接触で柔らかい物質の粘弾性特性の評価技術を確立するための基礎研究として、柔らかい固体、ゾル、ゲルの表面波速度の推定可能性について検討を行った。牛もも肉、生体組織疑似ファントム、ゼリー、かまぼこ、歯磨き粉に集束超音波を照射することによって、表面波を発生させ、発生した表面波の速度をレーザドプラ振動計で測定した。推定した速度が概ね文献値と一致していることを確認し、粘弾性測定の可能性を見出した。
超音波診断は,非侵襲かつ低コストで有用な診断方法であるが,超音波による血流解析はビーム方向の速度成分しか推定できないために,ビームに直交な成分を求めるEchodynamography(EDG)法が提案された.しかし,直線流が多い場合ビームに直交する速度成分が十分に推定不能である.本研究の目的は,ナビエ・ストークス方程式(NS方程式)を用いた数値計算を用いて2次元速度ベクトルの推定の向上の目指すことである.EDG法を用いて推定した速度ベクトルに離散化されたNS方程式の解を求め数値計算をすることを行い,直線流が多い場合でも直交成分の推定が行うことが可能であった.したがって,NS方程式を用いた数値計算は推定精度を向上することが示唆された.
心臓内の血流ダイナミクスは心疾患の早期発見のための指標としてだけではなく, 心臓の物理的な動態を解明するためにも必須である. 一般的に用いられるカラードプラ法は非侵襲的かつ低コストで血流の評価が可能である. しかしながら, 超音波の送信方向の速度成分しか検出することができないため, 心臓内の血流動態の可視化が困難である. 本研究では, Field IIを用いて心臓内に発生する渦流れを模擬したファントムから得られるRF信号を作成した. このRF信号に対して, 拡散波を用いたベクトルドプラ法およびブロックマッチング法を適用して得られる推定値と真値との比較を行った.
超音波の生物作用は熱作用、キャビテーション作用、非キャビテーション作用に分類される。超音波によるDNA損傷については、胎児診断の安全性への検討の観点から多くの報告がされてきた。水溶液中DNAへの影響および細胞内DNA損傷への影響と検出技術の進歩とも相まってその作用機序が提示されてきた。一方でDNA損傷はその生成のみならず、修復と残存する損傷が重要であることが判明してきた。今回は、超音波の水溶液系DNA損傷の生成機序、細胞内DNA損傷の生成機序、および細胞応答ついて概説する。
炭素繊維強化樹脂(CFRP)内部のきずを非破壊的に映像化するための光音響顕微鏡(PAM)が開発段階にある.このPAMは,プリズムによってCFRP供試体の表面にレーザー光を集光させ,プリズム内に設置した水浸集束超音波プローブで光音響波を受信する.ここでは,レーザー光の波長が532nmと1064nmの場合の光音響イメージング結果の比較を行った.さらに,超音波プローブの中心周波数を5,10,15MHzと変化させた場合についても検討を行った.発生した光音響波は広帯域な周波数特性を有するため,材料表面からのテール信号と欠陥エコーとの干渉を抑えることできる.この特性を利用すれば,低周波帯域のプローブでも有効なイメージングが可能であることを示した.
光音響イメージングは,腫瘍や炎症性疾患などで増殖した血管の分布や酸素飽和度を可視化することで,癌やリウマチなどの診断への応用が期待されている.そこで光音響像と超音波像を非侵襲かつ簡便に撮像可能なハンドヘルド型超音波プローブを用いた装置を開発した.この装置には計測が簡便であるという利点がある反面,組織境界面での反射によるクラッタノイズなどにより画質が低下するといった問題がある.そこで本研究では,光音響像を多波長で計測することにより高輝度部の光音響スペクトルからクラッタノイズを特定・除去する方法を考案した.血管を模擬したファントムの多波長計測によりクラッタノイズを特定・除去できる可能性を実証した.
我々は,in vivoにおける高効率なソノポレーションの実現を目指し,ソノポレーション現象の高速度顕微観察を行ってきた.しかし従来の高速度カメラでは,撮影コマ数が24コマと少なく,短パルス照射下での現象しか捉えることができなかった.本研究では,撮影速度は同程度で,256コマ撮影可能な高速度カメラを用いて,高音圧短パルスと低音圧長パルスの2種類の超音波照射条件下におけるソノポレーション現象を観察し,超音波照射条件と細胞膜損傷の発生機序との関連を調べた.観察の結果,高音圧短パルス条件では気泡が細胞から離れていく動きが97%に認められたが,低音圧長パルス条件ではその割合は35%に低下し,気泡の多くが細胞表面に留まった.また,気泡と細胞の相互作用を比較すると,高音圧短パルス条件では,気泡が離れていく際に気泡もしくは気泡が作る水の流れが細胞膜を局所的に引き伸ばすことが膜損傷の原因と考えられた.これに対し,低音圧長パルス条件では,気泡が細胞表面で持続的に膨張収縮をすることにより細胞膜損傷が生じていることを示唆する現象が捉えられた.一方,蛍光顕微観察で求めた細胞膜損傷率は,高音圧短パルス条件では42% (8/19),低音圧長パルス条件では43% (10/23)とほぼ同じであった.これらの結果より,ソノポレーションには,超音波の照射条件に依存する2種類の異なる機械的作用機序が存在し,それぞれが同程度の膜損傷率を生じ得ることが示された.
超音波画像診断においてリンパ管の描出は難しいとされていることから,従来の生体組織の形態情報に造影剤の動的情報を加えたリンパ管の検出法を提案する.具体的には,リンパ管内に超音波造影剤である微小気泡が存在している状況を想定し,音響放射力によって生ずる超音波造影剤の動態をドプラ法で検出する手法(以下,動的造影法)を検討している.動的造影法の基本原理を確認するため,直径0.5 mmの円筒状チャンバーを内部に形成した寒天ファントムを使用して,検証実験を実施した.チャンバーに滞留した造影剤に中心周波数14.4 MHzの超音波を一定の照射音圧で繰り返し照射し,エコー信号からドプラシフト周波数を算出した.超音波の照射音圧,パルス繰り返し周波数をそれぞれ4条件で変化させたところ高出力条件においては10 Hz程度のドプラシフト周波数が算出され,造影剤の検出が可能であることを確認した.
超音波探触子の指向性を送信時と受信時で異なる現象として説明する。超音波探触子からは直接波と直接波端部からエッジ波が発生するが、送信時の指向性はエッジ波の発生量に依存する。エッジ波は媒質により発生量が異なり、水中では検出されるが空気中ではほぼ検出されない。水中では超音波が少し広がるが、空中ではほぼ直進する。受信時の指向性は傾いて超音波を受信したときの受信時間差による信号の合成で決定し、最大伝搬距離差が大きくなると信号が打ち消し合って受信信号が小さくなる。また、斜めからの超音波は信号の波長が変化し、最大伝搬距離差が大きいと波長が長くなり見かけの周波数が低下する。
これまで多くの実測に基づいた音場の可視化技術が提案されてきた。一方、近年の複合現実技術の発展によって、視覚に自然な奥行き情報を与え、実空間に仮想的な情報を重畳するといった、空間に対して自然な情報提示が可能となってきた。これまで我々は複合現実技術を用いた3次元音響インテンシティマップの可視化システムを提案してきた。手持ちマイクロホンアレイで空間を走査するだけで、リアルタイムに音波が可視化でき、従来システムより高速に広範囲の音場が計測可能となる。そこで、本稿では、これを用いた広範囲の三次元音場の可視化の例として、パーティションによる音波の回折や、廊下から部屋へと室内の音伝搬の可視化を紹介する。
国内外のバリアフリー化を受けて,バリアフリー情報の提供・収集の一環として,ウェブ上で編集できるバリアフリーマップシステムの作成を試みた.特に本研究では,支援設備・デバイス等の状況があまり共有されていない,難聴者の補聴支援整備を対象として,その現状把握のために大規模なアンケート調査を実施し,それらの情報に基づき補聴支援マップを作成した.
最初の大きな地震で倒壊を免れた建造物であっても,ダメージの度合いによっては,余震に耐え続けることができるとは限らない.外部からの雑音振動によって生じる建造物の僅かな振動を用いて,建造物の健康状態を常時監視することができれば,被災者の安全と安心を確保できる.著者らは変動する音源スペクトルに埋もれた定常的な伝達系の調波構造を強調する累積調波分析を提案し,未知の雑音振動を用いた診断手法について模型実験で有効性を確認してきた.実際の建造物の共振周波数のモニタリング実験を実施し,安定した分析結果が得られることが確認されている.本報告は,提案しているパッシブ診断による建造物の共振周波数の推定結果を,アクティブ診断結果と比較することによって,提案する診断手法の精度について検証した.その結果,提案するパッシブなモニタリング手法では,相対誤差が2%未満で建造物の共振周波数の推定が可能であることが確認された.
視覚障害者にもテレビのスポーツ中継を十分に楽しんでいただくことを目的として、生放送に対応可能な自動解説放送サービスの検討を行っている。ラジオは音声のみで内容が理解できるように実況されているが、テレビの場合は映像から得られる情報は意図して発話されないことが多く、音声のみで番組を楽しむことが困難な場合が少なくない。そこで、スポーツの競技の「誰が」「いつ」「何をした」などの逐次データから放送音声の補完情報を自動で生成し、これと放送音声とを同時聴取する新しい考え方の解説放送サービス(=音声ガイド)を提案する。 視覚障害者のみならず、自動車の運転中などテレビ画面を見られない状況にある人すべてに有効である。
補聴器を使用する難聴者の多くは、雑音下で所望の音声を聞き取ることが困難である。雑音下での聞き取りを補聴器で改善するため、これまで数多くの音声強調処理が開発されてきたが、雑音による不快感の低減は行えても、言葉の聞き取りの改善には至っていなかった。近年、DNN で推定した時間周波数マスクを用いた音声強調アルゴリズムが提案され、特に従来の課題であった低SN 比において言葉の聞き取りの改善が実現されたことから、補聴器への応用が期待されている。一方で、補聴器のようなリアルタイム性が求められるシステムにおいては、同アルゴリズムを応用するには遅延や計算量の大きさ等の課題を解決しなければならず、同アルゴリズムがリアルタイムに動作する例は報告されていない。そこで本稿では、同アルゴリズムをノートパソコン上に実装し、リアルタイムに動作する試作機を作成した。被験者実験により評価を行い、補聴器に応用した場合の課題を抽出したので報告する。
腫瘍の音響特性に病理学的診断情報を紐付けることで,超音波計測による腫瘍部特定支援が期待される.病理学的根拠に基づいた腫瘍判別が可能となれば,摘出判断の確実性と迅速性の向上に繋がる.本研究では代表的な脳腫瘍である神経膠腫を対象として,病理学的組織特徴と音響特性との関係解析を目指す.基礎検討として,細胞核,赤血球,細胞質の組織密度を病理画像から求め,超音波顕微鏡を用いて取得した平均音速値との関係解析を試みた.重回帰分析を行った結果,細胞核の組織密度と平均音速値との間に高い相関性が確認された.本検討では組織密度の算出方法と平均音速値との解析結果を示す.
超音波による定量的診断技術の確立を目的として,エコー信号の後方散乱係数(BSC)解析に関する研究が多数行われてきたが,BSCと組織学的性質との関係は未だ詳細に解明されていない.そこで本研究では,肝臓の微小組織によって生じる超音波散乱現象の理解を目的とし,二次元音響インピーダンスマップ(2DZM)のフーリエ変換を利用したBSC解析を実施した.はじめに,正常肝の2DZMを構築し,主な散乱源となる微小構造の同定を行った.次に,脂肪量の異なる肝臓の2DZMを複数用意し,脂質滴が増加することによる散乱現象への影響を解析した.結果として,肝臓内に脂肪が存在する場合,脂肪における散乱が後方散乱係数に極めて大きな影響を与えることが確認された.また,脂肪量の増加とBSCの振幅の関係性も示された.
我々はmagnetic resonance elastography (MRE)とshear wave elastography (SWE)の両システムで測定可能な両用ファントムを開発してきたが、北米放射線学会がSWE用ファントムに求める音響特性である減衰係数と縦波音速の基準を満たしていない.本研究の目的は薬品の種類や配合の調節により、この基準を満たすファントム作製が可能かどうか検討することである.SWE・MRE両用ファントムの散乱体としてアルミナを用いることで減衰係数の調節が可能であった.またグリセリンの配合量を減らすことで縦波音速を下げることができた.薬品配合の調節により学会の定める基準に近づけることができた.
微小循環における酸素飽和度(SO2)のモニタリングは疾患の状態の把握や機序の理解をする上で重要である.そこで,我々はこれまでに微小循環イメージングを目的としてSidestream Dark-Filed(SDF) カメラを試作し,さらにin vitroのSDF画像からSO2の推定を行うSDFオキシメトリを開発してきた.しかし,推定値の妥当性検証は行われていない.そこで本研究では,SDFオキシメトリの妥当性検証を目的に,吸入酸素濃度(FiO2)の制御により小動物の酸素状態を変化させながら計測を行った.実験の結果,SO2推定値はFiO2の増減に対応した変化を示し,微小循環の酸素状態の変化を観察可能であることを確認した.また,FiO2の減少に伴う低酸素状態特有の微小循環構造の変化も観察された.
肝線維化の進行は弾性だけではなく粘性も変化も伴うため、粘弾性評価を行うことで肝線維化診断精度の向上が期待されている。しかし、粘弾性の推定法として用いられている、せん断波位相速度の速度分散から推定する方法(位相速度分散法)はノイズに弱い。そこで、近年、せん断波伝播の際の変位と粒子速度の群速度から粘弾性を推定する手法(2mode群速度法)が提案された。この手法は、通常のTime-of-flight法によるせん断波速度計測を用いるためロバストな粘弾性推定が可能である。そこで、今回我々は2mode群速度法と従来法である位相速度分散法を定量的に比較評価した。また、2mode群速度法における肝線維化構造の影響について評価した。
超音波計測によって得られる血流速度情報は, 心血管系疾患の重要な診断指標の1つである。近年, 平面波や拡散波を用いた高時間分解能超音波計測法を血流速度推定法に応用することで, 生体内のより詳細な血流ダイナミクスを測定することが可能となりつつある。この血流速度推定において, より正確に血管内腔・心臓内腔領域を決定することで推定精度向上も期待できる。そこで, 本報告では, 特異値分解を用いた血管内腔領域を抽出する手法を提案する。また, 提案手法と従来手法であるパワードプラ法を用いた手法とで領域抽出の性能を比較する。
生体への薬効などを評価する際には単一の細胞のみでなく,細胞間の相互作用も検討することが重要である.その定量的評価のためには,細胞を任意の場所に選択的に配置するパターニング技術が必要とされる.筆者らのグループでは,超音波を用いた細胞培養制御を検討している.本報告では特に,培養ディッシュ底面に励振した超音波たわみ振動を用いて,接着細胞の培養位置制御について検討した.実験結果として,超音波振動によって,細胞を特定の位置に捕捉することができ,その位置は培地中の音場の影響を強く受けることがわかった.また本手法は多種の細胞にも応用できることが示された.
本論文では,カラードプラ超音波を用いて,外部から入力される基準信号との位相差から気泡キャビテーション信号(BCS)の周波数情報を得る方法を提案する.カラードプラ超音波パルスと同期して,気泡キャビテーションを引き起こす強力超音波(ポンプ波)を気泡に照射し,さらにカラードプラ超音波に近い周波数を有する基準信号を映像用プローブに入力する.BCSと基準信号との間の位相差は,カラードプラ画像処理によって映像化されるためリアルタイムな観測が可能となる.正弦波信号をシミュレートすることで提案法の精度について評価したところ,平均推定誤差は10%であった.ポンプ波の音圧1.0MPaの条件下においてソナゾイドに対し本手法を適用した結果,約10パルスのポンプ波照射を境に前後で異なるキャビテーション現象が支配的であると推定された.
ファインバブル、特に数ミクロンサイズのバブルは超音波造影剤として注目されて研究が進み、実用化された。超音波の生物作用を考える上で、ファインバブルの関与は極めて重要である。ファインバブルはキャビテーションの核として働きその発生しきい値を下げる。即ち、ファインバブルは多くの超音波の生物作用を増強するので、治療効果の増強に利用できる。本発表では、著者が行ってきた超音波による生物・化学作用に関する研究について、ファインバブルの添加効果について、時系列を追って紹介する。さらに、最近のファインバブルを用いた治療応用の可能性についても言及する。
本研究では、表皮ブドウ球菌の菌液に超音波を照射することによる細菌のバイオフィルム生成阻害を目的とした。表皮ブドウ球菌の菌液にSound Cell Incubator(MU研究所製)を使って超音波を照射した。(超音波照射条件:1MHz, 5Vpp, Duty比 20%, PRT 10ms, 20分間)菌液準備後1時間後の1回照射とその後3時間後の2回照射を行った。超音波照射によるバイオフィルムの減少率は、2回照射で33.6%、1回照射で17.9%であった。短い時間の照射でもバイオフィルム生成の初期段階に照射すれば、バイオフィルム生成阻害効果が期待できた。これにより、超音波照射はその振動によって細菌のwell底面への接着を妨げていることが示唆される。また、超音波照射前後で菌液内の細菌数に変化はなかった。
シャーレ内に培養した細胞へ超音波を照射する場合,シャーレ内に生じる定在波音場は様々な条件の影響を受ける.今回,超音波の水面での反射,容器の傾き,吸収体の存在が容器内音場に与える影響をフォーカストシャドウ法により可視化した.水面の波立ちを模擬した容器では水面近傍に超音波の集束点が見られ,音圧が高くなる点が観測された.容器の傾きによる音場の非対称性の増強,吸収体による水面反射波強度の低下による定在波音場の消失を確認することができた.これらの結果より,シャーレ容器内には水面での正反射に基づく単純な定在波音場とは異なる複雑な音場が生じていることが確認された.
今回、我々はマウス前骨芽MC3T3-E1細胞の細胞増殖や細胞分化に対する低出力パルス超音波 (LIPUS) の効果を検討した。LIPUS (1.5 MHz, 30 mW/cm2) の20分間、1回照射は、細胞増殖とアルカリフォスファターゼ活性に影響を与えなかった。一方、そのLIPUSは、ERKのリン酸化とオステオカルシンのmRNAレベルを有意に増加させた。この条件下、ハイドロフォンを用いて超音波強度を測定した時、平均強度は表示のレベルとほぼ等しかったが,測定位置により値のバラツキがあることが示された。これらの成績は、細胞におけるLIPUS応答の分子メカニズムの解明に寄与すると考えられる。
軟性容器の内容物が腐敗して粘度が変化する場合があり、飲料業界では問題となっている。しかしながら、現状では破壊的に検査する手法しかない。そのため、音響照射加振とレーザドップラ振動計を用いた非接触音響探査法により、容器内の内容物粘度を容器の外側から測定できるかどうかの検討が行われた。基礎実験の結果から、内容物の粘度に応じた振動エネルギーの変化を得ることができ、またその関係は粘弾性体モデルから得られる傾向と一致することが明らかになった。
今回は大規模橋梁の床版下面における、2016年と2017年の計測結果を比較し、非接触音響探査法の再現性および、劣化の進行状況の確認を行った。1回目の計測から、約1年が経過しているため、計測対象部に何らかの変化が起きていることが予想された。計測距離は2016年および2017年共に33 m程度離れた位置からの長距離計測となった。実験の結果、欠陥部の領域が2016年よりも2017年の方が拡大している傾向が検出された。また、計測された共振周波数からも、欠陥部が拡大していると推測される変化が現出した。以上のことから、本手法において再現性および欠陥の進行状況の把握が可能であることが確認された。
一般的なレーザ超音波法では,強力なパルスを出力できるレーザ装置を用いて材料内にパルス状の弾性波を発生させ,材料内に伝搬した後の波形を解析して材料を評価している.本報では,ファイバレーザから出力される高繰り返しのレーザパルスや連続波を外部信号により変調することで,発生させる弾性波の制御を実現した.さらに,レーザ照射位置を走査して多点での励振源からの波形を処理することで薄板状材料裏面の損傷の画像が得られる技術に対し,このレーザ変調技術を適用し,広帯域弾性波を利用することでより鮮明な画像が取得できることを示した.この技術は,対象物が複雑な形状であっても,非接触により遠隔から画像が得られるため,広い応用が期待される.
Rotary ultrasonic motors (USM) can be controlled by adjusting the elliptical trajectory on the stator’s surface or by changing the preload between the rotor and the stator. Current control schemes are based upon elliptical trajectory control under a static preload for output control and efficiency optimization. However, this control scheme results in suboptimum driving efficiency or limited operating range due to the limited solution space. Preload has thus been introduced as an additional control parameter besides driving frequency to realize further optimization and expand operation range. Preload was dynamically controlled using a piezo linear actuator (PLA). Extremum seeking control (ESC) technique was used to track the optimum driving frequency while the PID controller was utilized for dynamic preload control to realize the desired output. Experimental results have proven the effectiveness of the proposed scheme at efficiency optimization for wide operating range.
空中超音波探傷で試験体を画像化したとき虚像が発生することがある。虚像は試験体内の多重反射により広がった信号を凹面の受信探触子で受信し、受信信号振動が変動したことが原因である。受信探触子の信号は受信各面の信号が合成されることにより指向性や焦点位置が発生しているように見える。凹面受信探触子の受信信号をシミュレーションで調べ、焦点位置の信号が強調される状況は複数の散乱信号が発生する時であることを述べた。平面信号が受信される時は凹面の開口角が大きいと受信点ごとの時間差が発生して受信強度が低下し、受信波形の波長も長くなったことを確認した。受信時は受信時間差が少ない小さな受信面にすることで虚像を低減できた。
強力超音波音場において利用可能な堅牢ハイドロホンを試作した。堅牢ハイドロホンを1 MHz集束型圧電振動子(開口径80 mm, 曲率50 mm, 15 MPa程度)の焦点近傍と22 kHzソノケミカルリアクタ(水槽120 × 120 × 210 mm3、水深110 mm)の強力超音波音場に挿入した時、ハイドロホン出力と高速度カメラの同時観察より、ハイドロホン近傍に生成する音響キャビテーションバブルの影響とハイドロホン出力の関係を調べた。堅牢ハイドロホンの先端形状がバブル挙動に及ぼす影響についても検討する。
リンパ管を可視化する手法として,アクティブ造影超音波法を提案している.提案法は,音響放射力により生じる超音波造影剤の移動をドプラ法で定量する手法である.これまでの検討では,音響放射力による造影剤の微視的な位置変動を定量可能であることを示し,その移動距離が理論計算値と概ね一致していることを確認している.提案法において,送受信ビームの分解能内には造影剤と周辺の生体組織などに由来するクラッタ成分が混在するため,造影剤の移動速度の誤推定につながる可能性が考えられる.そこで,生体組織の散乱特性を模擬した散乱体含有ファントムを用いてクラッタ信号を再現し,その内部に直径0.91 mmの円筒形チャンバを形成し,超音波造影剤(Sonazoid○R)の懸濁液を充填した.分解能内におけるファントムと造影剤存在部位の領域比を調整するため,200 μmの点拡がり関数(方位方向)を有する振動子を方位方向に20 μmずつ移動させ,各走査線において中心周波数14.4 MHz,パルス長0.47 mmの超音波の送受信を行った.実験ではチャンバ中心と音軸の距離が0.38 mm程度以上離れると造影剤の移動速度が低下し,この距離は実際のチャンバ半径よりも小さいことが確認された.また,深度方向においても同様の傾向が確認された.今回の結果は特にチャンバ上部と方位方向の境界付近の部分では造影剤移動速度が過小に評価される可能性を示唆している.
細胞培養容器を用いて付着細胞である脳腫瘍細胞に対して音響強度をコントロールした超音波照射を行いたい。しかし、当研究室では培養容器内の環境や容器寸法等が問題となり、音響強度のコントロールが困難になっている。そこで本稿では、有限要素法による3次元音場シミュレーションによって細胞培養容器の寸法が音場に及ぼす影響について検討した。本研究では、底面の厚みが 1.5 mmと 20 μmの 2 種類の容器内の音場について検討した。また、容器の肉厚を 1.5 mmから 2.0 mmに変化させた場合に音場に及ぼす影響についても検討した。
我々はこれまで,超音波の音響放射力を用いて極細カテーテルを屈曲させる条件について検討してきたが,音波の伝搬方向に押し込む屈曲が主流であった.しかし実際の運用を想定する場合,血管内で任意の方向に誘導制御するためには,音波の進行方向依存性を解消する必要がある.本研究では,2つの2Dアレイトランスデューサを用いて,その設計された音響放射力の空間分布を時間的に変化させる時空間分割照射を利用して,外直径が0.2 mmのカテーテルに対して音波伝搬の垂直方向への屈曲を目指している.実験結果から,カテーテルは音波伝搬の垂直方向に最大0.8 mm屈曲することを示し,人工流路内で任意方向に屈曲・誘導されることを示した.
急性脳梗塞の第一選択療法である血栓溶解薬(rt-PA)による血栓溶解療法は,治療後24時間以内に 2割前後の割合で脳血管が再閉塞してしまう問題を抱えている.しかし,rt-PA療法後24時間以内に脳梗塞の再発予防を目的に抗血栓薬を使用すると脳出血率が顕著に上昇することから,抗血栓薬の使用は禁止されている.そこで本研究では,非侵襲的超音波による脳血管再閉塞予防法についてin vitroにて構築した血栓形成モデルを用いて的検討を行った.非侵襲的音響強度の超音波を血栓形成モデルに照射するだけで顕著にフィブリンの形成を抑制することが明らかとなった.本結果より,血栓溶解薬を用いた急性脳梗塞治療後の再閉塞予防に超音波を安全に用いることができる可能性が示唆された.
超音波照射下での細胞の制御性を高めるために、気泡が細胞の表面に付着した微小気泡凝集体(BSC)を形成することによる細胞の能動的制御の方法を以前に報告した。しかし、超音波照射の条件によるBSCに含まれる細胞への機械的または生物学的損傷は明らかにされていない。それ故、我々は、BSC中の細胞の超音波照射条件に対する生存率を検証した。まず、CCK-8アッセイとLDHアッセイの2つの方法を導入することによって細胞生存率の信頼性を検証した。次に、バースト波よりも連続波照射下で細胞生存率を減少させることを確認した。最も支配的なパラメータは気泡の濃度として得られ、0.5 mg/mL未満であるべきである。また、300 kPa-pp未満の最大音圧と50%未満の低いデューティ比を使用すると、60秒の照射時間内でセルの生存率が75%以上保証される。
本研究では,複数の異なる方向から撮像した超音波ボリュームに対して血管網構造を利用して拡張し,広範囲の血管網情報を再構築することを目的とする.超音波診断装置Philips iU22を用いて取得した目標血管網のボリュームから抽出した血管網構造を3次元細線化処理によりグラフ化する.さらに隣接したボリュームの共通分岐点を用いて空間レジストレーションを行い,ボリューム間の同次変換行列を算出した後.同一の座標系に複数の血管網構造を配置し拡張を行う.ブタ肝臓血管におけるCTの血管網との比較を行い,木編集距離による血管網構造の類似度を求めた結果,拡張後の血管網は約55%となり,拡張前より最大で約30%上昇した.これより本手法を用いて血管網情報を拡張できる可能性を確認した.