粗鬆症の超音波診断の基準モデルとなる骨ファントムの作製に取り組んでいる。人工多孔質体のX線CTデータを元にする方法および数値的にネットワーク構造を生成する方法により,海綿骨構造の3次元データを作り出し,それを3Dプリンタで造形した。海綿骨の小柱骨の太さ,小柱骨太さの空間的不均一性,孔形状の異方性などの骨構造パラメータと超音波散乱の関係を実験的に検討した。
臨床で計測可能な脈波の伝搬挙動解明を目的に,血管を模擬したチューブを用いて,チューブ内の圧力波伝搬を実験的に検討した.特にチューブ内に作成した狭窄からの圧力波の反射に着目した.狭窄の形状がチューブ内を伝搬する圧力波に与える影響についても実験及びシミュレーションを用いて解析した.今回は狭窄率75 %程度の狭窄を対象とし,狭窄の形状が圧力波伝搬に影響を与えることを示した.
距離分解能は,超音波イメージングにおける画質に関係する要素の1 つである.本研究グループでは,Bモード画像における距離方向分解能を向上させるため,超音波散乱強度の最尤推定に基づくフィルタを検討した.検討したフィルタにより得られるB モード画像は高い距離方向分解能を実現したものの,超音波エコー信号波形は伝搬物質の周波数依存減衰により変化するため,提案した最尤推定フィルタの性能は画像化対象の減衰特性に依存する可能性がある.本研究ではこのフィルタを改良することで,距離方向分解能および深達度を向上させることを目指す.そのため本報告では,離散エコー信号にたたみこまれている超音波送受信機の送受信特性を,画像化対象から得られた受信信号から推定した.さらに,伝搬に伴う超音波パルス波形の変化を考慮するため,画像化対象を深さ方向に一定の幅で複数の区間に分け,区間ごとに送受信特性を計算し,画像化する領域に応じて使用した.提案法により得られるB モード画像を,従来法により得られる画像と比較することで性能評価を行った.その実験の結果,受信信号からは従来法より小さな半値幅が得られ,距離分解能の向上が確認された.
超音波照射による遺伝子の細胞内への取り込み現象:ソノポレーションを,光学顕微鏡を用いて観察する.そのための超音波照射条件を実験計画法により検討した.培養したHepG2 細胞に,プラスミドDNA(pEGFPN3)とマイクロバブルを加え,超音波照射したのち,Green Fluorescent Protein(GFP)を発現した細胞を蛍光顕微鏡下で観察した.超音波照射時の超音波トランスジューサと培養プレート底面の距離,超音波照射強度,照射時間,そのデューティ比をL9 直交表に割り付けた.GFP の蛍光強度は,照射距離,照射強度に影響されることが示された.
強力集束超音波(HIFU)治療では治療時間短縮のために治療効率の向上が必要とされている.HIFU治療にはキャビテーション気泡の高温・高圧場を利用した音響化学療法がある.キャビテーション気泡の反応場に加え,音響活性物質を用いることで,活性酸素種が生成され,その細胞毒性によってがんを死滅させることができ,HIFUの熱治療では治療困難な部位への使用が期待されている.熱治療においては焦点走査をすることで治療効率向上が図れるが,音響化学療法についてはあまり知られていない.本研究では治療用の多素子からなるアレイトランスデューサで焦点走査を行い,ルミノール反応によって活性酸素種の生成領域を定量的に評価し,キャビテーション気泡の持続的な振動が活性酸素種の生成に有効であることを示した.
土耕栽培において最適潅水制御を行うには,植物の水ストレスを非侵襲的に推定する必要がある.その方法として,我々は葉の固有振動数の変化に着目しており,これまでに,葉の固有振動数は日周変化し,水が十分な場合,固有振動数は夜間に低下し日中に上昇するが,しおれが始まると,その固有振動数の低下は,夜間でなく日中に起こることを見出している.これらはレーザ変位計やハイスピードカメラを用いて計測されたが,実は通常のCCDカメラでも計測可能と考えられる.本稿ではそれが可能か検証した結果を報告する.
我々は,血管内超音波検査(IVUS)への応用を目的として,駆動源をカテーテルの先端に設置可能な小型モータである,コイル状ステータ超音波モータ(CS-USM)の開発行ってきた.アウターロータタイプのCS-USMでは,オフラインでの画像化の報告がされているが,駆動源が体外に設置されるため,CS-USMの構造を再検討する必要があると考えられる.インナーロータタイプのCS-USMでは,音響導波路とPZT 振動子の位置関係が直角上にあるため,実用化には不適当である.本報告では,インナーロータタイプのCS-USMを用いて実用化に向けた構造を提案し,回転速度の測定を行った.その結果,IVUS必要回転数である1800 rpm 以上を記録した.
マニピュレーションにおいて、把持対象物に対するセンシングは重要であるが、別途センサを取り付けることはデバイスの小型化を妨げる要因となる。本研究では、圧電素子を用いた小型マニピュレータにおいて、把持に伴う圧電素子の機械的な境界条件の変化を等価回路で表現し、圧電素子をアクチュエータとしてだけでなく、同時にセンサとしても利用するセルフセンシングにより、把持状態の検出など様々なセンシングも行える小型マニピュレーションシステムの実現を目指す。今回はその基礎的な知見を得るために、変位拡大機構付き圧電アクチュエータを用いて、変位出力部分と対象物との接触状態をセルフセンシングにより検知した。
柔軟性超音波探触子を開発し、凹凸のある面や曲面からの超音波計測を行った。単眼のソフトプローブ、リニアアレイプローブ、マトリクスアレイプローブの超音波探触子をそれぞれ開発した。ソフトプローブでは溶接部の探傷や配管エルボ部の減肉計測、歯肉の厚さ計測について述べた。リニアアレイプローブは配管溶接部や乳腺ファントム、手首の血管の画像化を行った。マトリクスアレイプローブは配管エルボ部の減肉を画像化した。リニアアレイプローブでは試験体断面のB モード画像、マトリクスアレイプローブでは試験体の断面と平面画像をそれぞれ取得できる。配管エルボ部の観測では断面画像で減肉の深さ、平面画像で減肉の形状をそれぞれ確認できた。
柔軟性を持つ超音波探触子を開発し、曲面からの超音波計測を行った。単眼、リニアアレイ、マトリクスアレイの3種の柔軟性超音波探触子を開発し、曲面の試験体やパイプエルボで受信波形や画像化の評価を行った。単眼のプローブは溶接部の探傷や歯肉の厚さ計測を行った。また、リニアアレイプローブは溶接部や乳腺ファントム、手首の断面について画像化した。さらにマトリクスアレイプローブは3次元曲面の平面画像と断面画像を取得し、球面ブロックの人工きず形状、パイプエルボの減肉形状を画像化した。
骨粗鬆症の診断手法の1つであるQUSは,踵や手首に超音波振動子を接触させて生体内(海綿骨内)を伝搬する超音波の速度や減衰特性を計測することで骨量を推定する.本研究では,踵を透過した空中超音波を用いて踵内の音響特性を非接触で計測する手法について検討を行っている.これまで研究では,空気・生体間での反射によって著しく減衰し,踵表面で大きく屈折する透過波を検出する手法を提案し,踵内の音波伝搬速度を算出することに成功した.本報告では,提案手法の計測精度を評価するため,踵を模擬し,側面が傾斜したファントム内の音波伝搬速度を算出する実験を行った.実験は振動子とファントムが非接触および接触状態でそれぞれ30回行い,得られた音波伝搬速度の比較検討を行った.
心疾患の早期発見のための指標として,逆流や狭窄が重要とされている.カラードプラ法は非侵襲的かつ低コストで血流の評価が可能である.しかし,超音波の送信方向の速度成分しか検出することができないため、細かい血流動態の可視化が難しい.本研究では単一プローブから異なる角度の拡散波を照射することにより,重複した領域において血流ベクトルの計算を行った.妥当性の評価方法として,PVAモデルを用いた.定常流の流量測定により推定速度の妥当性を評価した.また,ファントム内の渦流をPIV法と提案手法によりそれぞれ計測し,PIVを真値として比較し,提案手法の有用性を示した.
高効率な強力集束超音波治療には音響キャビテーション気泡の利用が考えられ,安全性との両立や治療援用効果の確認のためには気泡の高感度・高コントラストな検出が求められる.気泡イメージングの手法としてパルスインバージョン法が良く用いられているが,気泡由来の非線形応答と非線形伝播に伴う高調波成分の重畳との切り分けは困難である.そこで本報告では気泡の非線形エコーを選択的に検出することに優れる,3つの初期位相パルスを用いた手法について,キャビテーション気泡の選択的検出に関する検討を行った.
超音波と微小気泡を援用したドラッグデリバリシステム(DDS)において、強力超音波照射時のクラウド形成を伴い破壊に至る複雑な気泡キャビテーション過程を高空間分解能かつ高時間分解能で計測することは重要な技術である.我々はこれまでに汎用超音波映像装置のパワードプラ画像を使いS画像,T画像と呼ぶ画像を用いて気泡キャビテーションを観察する方法を提案した.本稿では気泡キャビテーション信号の受信RFデータから波動逆伝播(ホログラフィック像再生)を用いることでサブマイクロ秒の時間分解能とサブミリメートルの空間分解能を両立した気泡キャビテーション現象の新たな方法を提案する.
強力集束超音波(HIFU)治療は体外から体内の焦点領域に集束超音波を照射する非侵襲的な治療法である. HIFUを用いた血栓溶解治療ではキャビテーションの機械作用によって血栓溶解剤の効果を促進している. しかし, 予期せぬ部分に生成したキャビテーションによって正常細胞が死滅することもありうるため, 安全性の観点から血流とキャビテーション成分を分離しモニタリングする必要がある. 本研究では特異値分解フィルタを用いて血流とキャビテーションの信号を分離した.
現在,医用超音波は診断・治療の両分野において幅広く利用されており,安全性の評価のためには超音波音場の正確な測定手法の確立が必要となる.標準的な測定手法であるハイドロフォン法は測定時間が長いことや,音場を乱す恐れがあるなどの欠点がある.本研究では,高速な音場測定手法である光位相コントラスト法を用いて,集束前の軸対象HIFUパルス音場を測定し,非線形伝搬シミュレーションを用いた音響ホログラフィー的解析と組み合わせることによって,治療レベルの強度を持つHIFUパルス音場の伝搬を再構成した.得られた圧力分布をハイドロフォン法と比較をすると良い一致が見られ,本手法の有用性を示した.
我々は,非侵襲的かつ簡便な血管構造の高画質,高機能イメージングを目指し,波長可変レーザーを用いたハンドヘルド型光音響イメージングシステムを開発した.まず血管を模擬した試料による実験で,その有用性を検証した.血液の吸収が強い波長の光を照射することで,深さ10 mmの位置において模擬血管の描出が可能であることを確認した.また,複数波長を用いて得られた光音響スペクトルと血液の光吸収スペクトルの相互相関係数マップを作成することにより,特異的に血管を検出できることを確認した.さらに,超音波プローブを走査してin vivo 計測を行い,開発した装置で血管の3次元的な画像が作れることを確かめた.これらの解析をとおし,開発した装置の有用性を実証した.
我々はこれまで,生体組織に近い柔軟性を持つ足場付近にある微小気泡のふるまいを側方から高速度観察し,超音波照射によって気泡が足場から離れていくふるまいを生じることを報告してきた.そこで本報告では,柔軟な足場上にさらに細胞を培養し,気泡と細胞との相互作用を側方高速度観察することで,in vivo模擬条件での細胞膜損傷メカニズムに関する検討を行った.その結果,気泡が細胞に接着した条件であっ ても,97%の確率で微小気泡が足場から離れていくふるまいを生じることを確認した.気泡−細胞間の相互作用は大きく4つに分類できた.その中でも,気泡−細胞間の接着力が強く,足場から離れていく気泡の動き に従って細胞膜が引き伸ばされる場合,複数の気泡間の相互作用により生じた水流が細胞膜を引き伸ばす場 合においては損傷率が100%,75%と大きく,この2つの現象を積極的に誘導することで,柔軟な足場上の細胞に対しても効率良く損傷を与え得ることが示唆された.
1.0MHzの超音波パルスによって引き起こされたDNA分子の二重鎖切断を,単一分子観察を用いて定量化した.また,マイクロバブルであるキャビテーション核が二本鎖切断の頻度に及ぼす影響を調べた.DNA分子溶液およびマイクロバブルを含む溶液に持続時間5μsから100μsの超音波を照射した時の,二重鎖切断が発生する負のピーク音圧を調べた.その音圧閾値は,パルス持続時間が増大すると低くなり,パルス繰り返し時間が増大すると高くなった.また,マイクロバブルが存在する場合,二本鎖切断の閾値音圧は小さくなることを見出した.
超音波の生物作用は熱作用、キャビテーション作用、非キャビテーション作用に分類される。生物影響の主たる作用は機械的作用と思われるが、最近の研究で遺伝子水準での変化が明らかになってきた。特に低強度パルス超音波は遺伝子水準で骨形成に影響することが知られ、骨折治療に広く利用されている。今回は、超音波の生物作用について、細胞応答の研究から分子的メカニズムによる治療について概説する。
胚への超音波照射はその後の発達に影響を与えるため、その生体作用を多角的に検討することは重要であると考えられる。本研究は受精後4日目のメダカ胚に周波数30 kHzの超音波照射を音圧の範囲20 kPa〜150 kPaで行い,メダカ全胚を用いてプロテオーム解析を行った.超音波照射量により変動するプロテオーム解析のために,Blue Native/SDS 二次元電気泳動を行いある酵素を同定した.本酵素の発現変化は,Western Blotting法により検証した.発生期における超音波照射は,本酵素の関連する代謝に影響を及ぼすことが示唆され,生体作用を考慮する上で重要な知見が得られた.
頭皮・毛根は表在臓器であり、体外からの超音波照射に適している。本研究では超音波による発毛の可能性を探るために、3次元培養系で超音波が細胞に与える影響を観察した。 ヒト毛乳頭細胞およびヒト毛包外毛根鞘細胞を3次元培養系し、超音波照射後に蛍光顕微鏡でZ軸方向の画像を撮影した。超音波照射により、毛乳頭細胞および外毛根鞘細胞の活性化が観察された。また、これらの効果は照射から2日間継続していた。本研究より、発毛に対する超音波治療法の可能性が示された。今後、メカニズムや生体での反応などを検討する必要がある。
近年の情報通信技術の進展に伴い,録音再生の技術は飛躍的に向上している.2010 年代初頭より,いわゆる「ハイレゾ」が市場に登場し,一般に普及しつつある現状である.すなわち,録音再生技術の向上により,これまで視えていなかった音響信号成分が明らかになり,人間の可聴不可能な周波数帯域であるがゆえに,これまであまり深く議論がされてこなかった20kHz 以上の音響信号についても利用が進むだろう.本研究では768kHz/32bit の超高解像音響測定システムについて評価実験を行い,観測される音場環境の評価結果を報告している.768kHz/32bit の高サンプリング・高ビット深度の計測によって,無響音室内で測定されるノイズフロアが低減することが明らかとなり,音響的に雑音の少ない環境下における超高解像測定の利用は有効であることがわかった.一方,低ノイズフロアを実現することで,電子機器を要因とする雑音成分を測定してしまうことも懸念される.本報告では,その一例としてインバータが原因と思われる信号について検討し,その結果を示している.
光を用いた音場計測法は非接触かつ高い空間分解能で計測ができるため,音場の可視化に有効である.我々が近年提案している偏光高速度干渉計は,偏光高速度カメラと並列位相シフト干渉法を組み合わせ計測器であり,可聴音場および数十kHzの超音波音場を瞬時・定量かつ高いフレームレートで2次元計測することができる.本稿では,偏光高速度干渉計を用いた音場計測の原理,基礎実験による特性評価,およびいくつかの応用例について記す.
集束超音波探触子の焦点位置が直接波とエッジ波で形成されることを述べた。音響レンズ、凹型振動子の集束超音波探触子の両方で評価を行い、焦点形成が同じ理屈で発生することを確かめた。開口角により直接波、エッジ波の影響度合いが変化し、開口角が小さいとエッジ波の影響が大きくなる。エッジ波は波長の影響を受けるので開口角が小さいと焦点位置に周波数の影響が発生する。周波数をFFT による周波数A、周期の逆数による周波数B に分けて考え、波長の評価は周波数B で行うことが適切と述べた。開口角が小さい場合シミュレーション、実験で焦点位置が異なったが、周波数B を合わせると焦点位置が合った。
騒音問題を解決する手がかりとして,騒音を可視化することは重要である.しかし,都市部や高層ビル周辺における騒音計測を実施することは,高層になるにつれ観測点が多くなる,地上からの高さ,ビルからの距離を正確に計測する必要がありコストや手間がかかるなどの問題がある.我々は,空中の騒音を可視化する目的で小型無人飛行船を用いた騒音可視化システムを提案してきた.本研究では,既存の研究にSimultaneouslocalization and mappingの技術を導入し,都市部や高層ビル周辺における騒音の可視化を目的としたシステムを作成した.これにより,空間の形状把握と自己位置推定を利用した空間の三次元モデルに対して音情報をマッピングすることが可能となった.
本論文は、VR技術とAmbisonicsによる立体音響技術により実現した騒音評価システムについて述べる。本システムは道路交通騒音や工事騒音などの屋外騒音問題を対象とし、騒音予測計算結果を直ちに可視化・可聴化できることを特徴とする。移動音源を含む種々の騒音源に対し、受音点位置における音波の到来方向や到達遅れ時間を考慮して効率的かつ高速な音響計算を行う。また再現性向上のため、自動車走行音などの可聴化用の音源信号は実測データをもとに生成している。本論文では、本騒音評価システムの概要、騒音予測精度ならびに立体音響手法の妥当性に関する検討結果を報告する。
音場の可視化ではカメラ映像に音情報を重畳する手法が多く用いられるが,平面ディスプレイでは三次元音場情報の奥行き表現が困難である.そこで,ビデオ透過型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)とマーカ画像認識により,立体的な音場情報を多視点から観測するシステムを提案した.しかし,ビデオカメラ設定の影響による不自然な視覚情報や,オクルージョンや視点位置の検出の不正確さによって正確な可視化が行える状況が限られることが課題であった.そこで,光学透過型HMDと空間認識センサによるシステムを新たに提案した.ビデオ透過型システムよりも自然な視覚情報と,広範囲の視点移動とオクルージョンを考慮した可視化を実現した.本稿では,両システムの詳細を紹介し,三次元音響インテンシティ分布の可視化例から光学透過型システムの有効性を示す.
時間反転音波集束を用いた超音波イメージング実現のため,初期信号取得法の検討が行われた.未知対象物上に音波集束を行うため,対象物を置かないときの焦点形成位置において観測される音圧信号を時間反転の初期信号とする方法を提案した.提案法の時間反転集束特性が,対象物上の焦点形成位置における振動速度を初期信号とする従来法の空間集束特性と比較された.垂直方向集束において,両者の特性はおよそ同等の性能であるものの,水平方向集束において提案法では複数のピークが形成されため,従来法より集束性が低下する結果が示された.
超音波での空中物体速度計測法には,主にドップラー法が用いられるが,測定対象の速度が遅い場合ドップラーシフトが小さくなり周波数分解能の制限により誤差は大きくなるため不適切であると指摘されている.本研究では,感度補正型ダブルパルス法での速度計測を実験的に行い,ドップラー法との比較検討を行った.ここで,ダブルパルス法においては,標準受信信号との相互相関を用いたパルス圧縮手法に加え,ドップラーシフトの影響の削減を目的とし,受信信号の自己相関法を新たに考案し,速度計測の結果を比較検討した.
看板やトンネルなどで使用されているアンカーボルトの超音波検査について報告する。接着剤を使用したケミカルアンカーについて超音波検査を行い、アンカーボルト先端からの反射信号Aと遅れて発生する信号Bとの比B/Aからアンカーボルトの健全性評価を行った。アンカーボルト施工の際にコンクリートに開ける穴の大きさを標準施工より大きくするとB/Aの値が小さくなった。また、穴の掃除を行わない場合も施工不良となるが、その場合もきれいに掃除を行った場合に比べてB/Aの値が小さくなった。接着系アンカーボルトの健全性はB/Aの値で評価できる可能性を示した。
汎用超音波診断装置を用いたびまん性肝疾患の定量化機能および視認性の向上を目的とし、エコー信号の信号雑音比(SNR)の生体組織の観察に適した算出法およびイメージング法について検討を行なった。算出方法としては、5つの重複したkernelを用いた5-kernel法を提案し,単純に1個のkernelのサイズを変化させた場合とのSNRおよびその2次元マッピング画像を作成し比較した.生体疑似ファントムおよび肝臓の臨床データを用いた比較においては、提案手法は定量性を保持したままその視認性が向上することが確認された。
生体組織の音響特性の2次元イメージングを特徴とする超音波顕微鏡は病理学的観察や組織物性値の収集および蓄積の目的で医療・生物分野で広く用いられている.しかし,音響インピーダンス解析においては,生体組織構造に由来する音響散乱が音響インピーダンスの解析精度に影響を及ぼすという報告がなされている.本研究では,中心周波数60 MHzおよび250 MHzの超音波振動子を用いてそれぞれ皮膚組織と培養細胞を対象に内部構造の三次元解析と音響インピーダンス解析を同時に行った.計測対象面からの反射波と内部構造からの散乱波の干渉に焦点をあて,内部構造と音響インピーダンス解析精度の関連性について議論する.
びまん性肝疾患では,せん断波速度に関連する病変部の剛性率が正常部よりも大きく,この剛性率の違いを計測し,病変を評価する手法の検討が進められている. しかし,臨床現場での検討では,条件により計測結果が異なる場合があることが報告がされている.本報告では肝臓を模擬したファントムを物理的に加振し発生させたせん断波を診察用のパルスにより計測し,せん断波変位量やせん断波伝搬速度の計測精度について検討した.また,定量診断における基礎検討のため,種々の加振方法を用いてファントムを加振し,加振周波数による差異や深度依存性について検討した.今回の実験において,加振周波数によって伝搬速度の値や深度依存性の変化が確認された.以上,ファントムを用いた検討により,加振周波数がせん断波伝搬計測に与える影響についての基礎データを得た.
空中超音波により試験体の厚さを非接触で計測した。共振法を用いて計測を行い、鋼板やアクリル板などの平面試験体のほか、曲面や凹凸面における厚さ計測を行った。平面試験体、曲面試験体で共振法による厚さ計測を行い、それぞれの厚さを計測した。また、厚さ5.5[mm]のアクリル板に円形などの形状で深さ0.5[mm]の溝を設定した試験体を計測したとき健全部と減肉部の両方の厚さを計測した。共振法の波形を時間ごとに調べ、試験体の厚さ計測を行うための評価を行う波形の箇所を考察した。送信信号の直後から共振信号が発生しているが、時間が経過した部分の信号ではノイズが大きくなり共振と思われる信号が検出できなかった。
遠距離からコンクリートの内部欠陥を検出可能な非接触音響探査法の検討を行っている。本手法は欠陥部のたわみ共振を利用した手法であり,既に鉄道トンネルや30m以上の離隔での高架橋および凹凸のある吹付けコンクリート等において,たたき点検と同等な検出能力があることを明らかにしている。本手法では2つの音響特徴量である振動エネルギー比とスペクトルエントロピーを用いた欠陥検出アルゴリズムにより,欠陥部と健全部の判別が可能であるが,実際のコンクリート構造物では,健全とされる部分の定義が明確でないため,閾値も場所により異なるという問題点が存在していた。そのため,今回は測定データから得られる音響学的特徴量(振動エネルギー比とスペクトルエントロピー)の分布に統計的処理を行って,健全部を評価抽出することにより,より明確な欠陥部の検出を可能にする手法を考案した。今回,欠陥による振動エネルギーが健全部の振動エネルギーに比べて埋もれてしまうほど差がない場合の例として,円形剥離欠陥を用いて検証し,健全部と欠陥部を分離識別する良好な結果が得られたので報告する。2つの音響学的特徴量を用いた,コンクリート健全部の統計評価による健全部抽出アルゴリズムにより,健全部と欠陥部をうまく分離識別することが可能である。
飲料容器内の液体が腐敗しガスが発生した場合には、不良品として回収する必要がある。磁性を持つ缶容器の場合は電磁パルスによる振動音をマイクロフォンで捉えることにより良否判定することが可能である。しかしながら、広く用いられているプラスチックや紙製の軟性容器は磁性を有してない。また、アルミ蒸着を施したプラスチックによる軟性容器であっても磁性は極めて小さい。そのため、電磁パルスによる検査方法は、磁性を有さない軟性容器に対しては有効ではないという問題があった。一方、音波を用いれば、このような磁性を有していない軟性容器であっても振動を発生させること自体は可能である。そのため、今回は音波照射加振とレーザドップラ振動計を用いた非接触音響探査法を用いて、軟性容器内に発生した内部気体量が検出できるかどうかの検討を行った。紙製容器を用いた評価実験の結果から、内部気体量に比例した振動エネルギーの増加が検出され、本手法による軟性容器検査への適用可能性が確認された。
体腔内で得た生体情報を体外にて受信せんとする場合、またさらにテレメトリ? 一般においても、計測現場との間の非接触的な伝送また給電や励起が本質的課題となる。現場の装置の究極的な簡素化、小型化、無給電化、長寿命化には、装置をパッシブテレメトリ? 系とし、現場には能動素子を含む電子回路システムを置かないという方式が、大きな制約を持ちつつも本質的な解決策であり得る事は公知の如くである。著者らは体腔内における静圧および音響信号のテレメトリ? のため封じ切りカプセル内に1次電池、2次電池、体液を用いた現場発電、電磁結合や光照射による動作電力の給電などを採用する事を検討し、また試みて来た。また完全にパッシブな電磁結合による計測原理も試みた。が、いずれも一長一短があり臨床応用に向けたシステム設計の着手には至っていない。本研究においては現場の装置をパッシブとして励起(電力の給電ではない)を超音波で行い、応答の受信を電磁結合で行うという方式を試み、他の方式にはない特徴あるシステム設計の可能性および知見を得たので報告する。すなわち、励起と応答の受信との間には超音波の伝播時間だけの遅延があるので送受分離の問題は時間軸上に転嫁され、送受とも電磁結合系による場合における送受同時分離の問題は発生しない。
リンパ浮腫などを罹患した皮膚組織において,初期の線維化や炎症程度を超音波定量診断法により指標化することを目指している.本報告では,摘出正常ヒト皮膚(n=3)と重度リンパ浮腫(n=1)からのRFエコー信号を自作スキャナと15,25 MHz(中心周波数)の単一凹面振動子を用いて計測し,エコー振幅包絡像の特徴を整理した.さらに,組織構造の差を指標化するために,後方散乱係数および統計分布を用いた信号解析法を適用した.組織構造の評価パラメータとして,Homodyned-K分布のパラメータμおよび1/(κ+1),後方散乱係数の積分値(IB)に着目した.特に25 MHz振動子での解析結果では,エコー強度に関連する評価パラメータの算出結果に差がみられた[中央値 (四分位範囲):μ=0.71 (0.43-1.16),IB=4.32 (2.20-10.3)×10-3 sr-1 mm-1 (正常皮膚)および μ=2.03(1.32-2.89),IB=13.0 (6.49-23.4)×10-3 sr-1 mm-1(リンパ浮腫)].正常皮膚に比して,リンパ浮腫組織が高散乱体密度かつ後方散乱波のエネルギーが大きいと想定される.病理像を用いて作成した膠原線維の数密度が異なる媒質モデルに対し,エコーシミュレーションを検討した結果においても,低散乱体密度なモデルに比して高散乱体密度なモデルの評価パラメータが高いことから,実信号解析の結果を裏付けることができた.
時間反転技術を用いると,開口を有するキャビティ内に設置された1 個の単一素子を用いて音波をキャビティ外部に集束させることができる.本研究において,空気中における単一素子の時間反転音波集束特性がシミューレーション及び実験によって評価された.特に,時間反転音波集束の走査範囲拡大のため,キャビティ内の多重反射が音波集束の空間走査範囲に与える影響を検討した.音源の設置方法,キャビティサイズ,音波放射孔サイズを変化させたシミュレーションや実験から,より適切なキャビティ形状を設計した.設計されたキャビティを用いた時間反転音源は音波集束の走査範囲を約2 倍まで拡大した.この結果から,単一素子を用いた時間反転集束音波による非接触イメージングの実用化の可能性が期待される.
圧電材料のハイパワー駆動時には、大振幅の歪みに依存した非線形弾性・非線形弾性損失によって振動速度の飽和や共振周波数変化が生じる。このようなハイパワー特性は線形範囲の評価指標であるd やQ 値では評価できない。本研究ではハイパワー特性の評価のため、複素高次弾性定数を測定した。非線形LCR 等価回路を用いて圧電体の高電圧駆動時のアドミッタンス曲線をカーブフィッティングすることにより、複素高次弾性定数を測定した。測定はPb(Zr,Ti)O3、(K,Na)NbO3、Ba(Zr,Ti)O3-(Ba,Ca)TiO3、Na2O-Bi2O3-TiO2-CrO3/2 のセラミックスとLiNbO3単結晶を対象とした。測定の結果から複素高次弾性定数と線形パラメータには相関があることを見出し、これは材料開発の指針になると共に、圧電材料の高次弾性の物理的要因の解明につながると期待される。また、複素高次弾性定数を用いてハイパワー駆動時の最大振動速度等の特性を評価する性能指数の提案を行った。
非接触音響探査法
溶融樹脂