弾性イメージング法のひとつであるVibro-acoustographyは,対象物を変調された音響放射力によって振動させ,そこから生じる音響放射を,対象近傍に設置したハイドロホンで取得することで画像を生成する.ただし,ハイドロホンはその振動特性を正しく検出できていない可能性がある.本報告では,この問題を検討するために,その信号取得法の評価を行う.水中に置かれた円形状に周端を固定したアルミニウム箔を対象物とし,集束超音波による音響放射力で振動を励起する.その振動速度と,ハイドロホンで取得した音圧の周波数特性を実験的に比較する.実験結果は両周波数特性のピーク周波数の一致を示した.これよりハイドロホンによって対象物の共振周波数を検出することができると推測される.
DPLUSは二重反射面構造により広帯域(0-2.5 MHz)かつ高出力(数MPa)の超音波を細棒先端に局所的に生成できることから,低侵襲治療など幅広い分野への応用が期待されている.本研究ではDPLUSを中空化することにより,内部に挿入したセンサによる先端付近のモニタリングやチューブを利用した破砕組織の吸引除去が可能となるチューブ型DPLUSを提案する.従来型DPLUSを単に中空化した構造と反射面の焦点位置を調整した新構造を比較したところ,新構造ではシミュレーション上で水中に生成する最大音圧が1.6倍大きいという高い性能を示した.また,作成した実機を用いて動物の脂肪の融解・吸引を行い,高周波の超音波破砕吸引装置としての応用可能性が確認された.
筆者らは、キャビテーション下における水中以外の環境において音圧を測定するために、反射型の光プローブハイドロホン(FOPH: Fiber Optic Probe Hydrophone)の使用を試みている。FOPHは耐熱性、耐薬品性があり、比較的安価で堅牢性があると知られており、従来の圧電ハイドロホン(PZT)では測定することのできない環境下で絶対音圧を測定できる可能性がある。これまでの研究結果より、キャビテーション下における水中での絶対音圧測定の可能性は確認している。しかし、媒質以外の物質が存在する液中でのキャビテーション下における絶対音圧が測定された報告例は少ない。本報告ではFOPHを用いた音圧測定において懸濁粒子の存在する液中での音圧測定の適用可能性に関して検討した。
金属製薄板状構造物に発生した減肉欠陥を,ガイド波を用いて検出する方法として,励振源に強力空中集束超音波を用いた空中超音波波源走査法(Scanning Airborne Ultrasound Source Technique:SAUS)を提案し,検討を進めている.ガイド波は欠陥位置において回折や反射が生じるため,提案手法により得られたガイド波伝搬画像(Wavefield データ)から欠陥位置を視覚的に特定することができる.一方,その領域や形状を正確に特定し,把握するには各種画像処理を行う必要性がある.画像処理の有効な手段の一つとして,敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks:GAN)の利用がある.GANは,機械学習を用いた画像生成方法の一つであり,あらかじめ用意された画像データから特徴を学習することにより,学習した特徴に沿った画像データの生成や変換が可能である.本研究では,GANを利用した画像生成アルゴリズムの一つであるpix2pixを提案手法であるSAUSで得られたWavefield データに対して適用し,欠陥形状を抽出することで視覚的に欠陥判別を支援するシステム構築を行っている.本報告では,数値シミュレーションにより得られたWavefield データに対して,GANを利用した欠陥領域を特定する簡易な画像の生成を試みている.
本報告は,任意軌道を伴う移動音源/受音点の2 次元FDTD 法への実装を検討している。時間ステップごとに音源/受音点を移動させながら移動経路上のグリッド点から刻々の音源信号を放射,あるいは音圧を受音する直接法と,経路上に隣接するグリッド点からのインパルス応答をすべて計算しておき,畳込みの際に移動を組み入れる畳込み法を提案している。2 次元場について定式化および数値実験を実施した結果,両手法ともドップラー効果を組み入れた移動音源/受音点を精度良く表現できることが示された。また,両手法について精度等を比較検討した結果,同等の精度であった。特に,畳込み法は畳込み時に音源波形や移動速度を変更できる利点を有する。
コウモリは超音波を放射しその反響を聴くエコーロケーションによって,高度な空間認知を行い,飛行している.特に,CF-FM型の超音波を発するキクガシラコウモリは,注意を払うエコーの周波数を常に聴覚系の感度の高い範囲で一定になるようパルスの周波数を変化させており(ドップラーシフト補償行動),エコー情報に基づいたエコーロケーション行動が知られている.ゆえに,エコー周波数が一定となる補償行動の対象物を明らかにすれば,コウモリの注意変化を知る大きな手掛かりとなる.しかし,従来からのテレメトリマイクロホンを用いた室内実験でも,飛行中のコウモリに届くすべてのエコーを計測することは不可能であり,エコー情報の分析がほとんど行われていない.そこで本研究では,音響シミュレーションの一つである2次元FDTD(finite-difference time-domain method, 時間領域有限差分)法に移動音源/受音点を実装することで,飛行実験中にコウモリが聴取したドップラー効果を含むエコーを数値解析的に再現した.さらにコウモリが補償行動によってエコー周波数を一定にしていた対象を推定し,飛行中のコウモリの注意方向の時間的な変化を分析した.
コウモリは超音波を照射し,周囲からのエコーを処理することで空間情報を取得している.これまで1送信(口または鼻),2受信(両耳)のコウモリの簡素なセンシング機構の特異性やユニークな戦術を様々な行動実験を通じて明らかにしてきた.本研究では, CF-FM型の超音波を放射するキクガシラコウモリの頭部をX線マイクロCTを用いてスキャンし,3Dモデルを作成した.この3Dモデルを用いてコウモリの頭部伝達関数を実測し,FDTDシミュレーションによる結果と比較した.さらにコウモリの超音波センシングにおいて耳介運動がどのような効果をもたらすのか考察した.
近年の臨床ニーズとして,NASHのような線維組織と脂肪滴が混在する肝疾患の定量評価が求められている.本研究では,脂肪量および線維化進行度の異なる臨床エコーデータを対象に本研究グループで開発した振幅包絡特性解析法を適用し,ミクロな生体組織構造と評価パラメータの関係性について検証した.振幅包絡値の統計的性質に着目した解析法により,重度脂肪肝をスクリーニング的に弁別可能である結果が得られた,また,Healthy Liver Structure Filter(HLSF)法を用いた評価モデルパラメータ分布において,脂肪肝および線維化の進行度に応じて評価パラメータの傾向が異なることが確認された.
平面波や拡散波による超高速超音波イメージングでは, 非常に高いフレームレートで2次元血流信号を取得できる. 特異値分解 (Singular value decomposition:SVD)フィルタは時空間的特性および信号強度の差に基づいており, 時間に基づくハイパスフィルタよりも組織成分の除去性能が優れていると報告されている. 本研究では, 血流イメージングの精度向上を目的として, 従来よりも長いアンサンブルサイズを用いる事で拍動の周期性を利用するSVDフィルタの適用に関する検討を行った. 総頸動脈をイメージング対象とし, 1.0 kHzの高速超音波イメージングによって2心拍分の超音波画像2048 フレーム(=2.048 s)を取得した. SVDフィルタ処理後のパワードプラ画像における組織と血流のコントラスト比は40.61 dBであり, 従来の時間に基づくハイパスフィルタと比べてコントラスト比は10.89 dB向上した.
今日の医療現場において、穿刺針と被検体内の組織の位置関係を超音波画像で確認しながら施術する超音波ガイド下穿刺は、広く用いられている。超音波ガイド下穿刺では、超音波ビームの狭いスライス面内を穿刺針を進める必要があるため、高い技能を要する。今回、2次元配列振動子の一形態である1.25D プローブを用い、針の視認範囲を広げるとともに、針のずれ方向についても特定できる技術の検討・実験を行なったので報告する。
我々は,微小気泡を貪食した樹状細胞を対象として,超音波照射による細胞の機械刺激が細胞内Ca2+の濃度変化を誘導する現象に関する検討を行ってきた.前回我々は,樹状細胞に超音波を照射することにより,細胞膜損傷を伴わずに細胞内Ca2+の濃度変化(Ca2+シグナリング)を誘導できることを報告した.しかし,貪食気泡が細胞に与える機械的作用を評価できていなかった.そこで本研究では,同一の樹状細胞を対象に,超音波照射により細胞に誘導される Ca2+濃度の蛍光観察と気泡のダイナミクスの高速度撮影を行った.その結果,気泡を有する細胞のみ機械的刺激が可能であること,気泡径変化が大きい位置からCa2+上昇すること,超音波の放射圧による気泡の移動ではなく圧力による気泡の変形が細胞内Ca2+変化の原因であり気泡径変化に関する閾値が存在することが示された.さらに超音波照射により壊れにくいプラスチックシェル気泡を用いることにより,Ca2+濃度変化を再現性よく誘導することが可能となった.本知見は樹状細胞を機械刺激によって成熟促進する超音波イムノモジュレーション研究に有用と考えられる.
膀胱癌のおよそ70%を占める筋層非浸潤性膀胱癌に対する膀胱注入療法に、超音波と微小気泡によるドラッグデリバリー技術「ソノポレーション」を組み合わせることで、膀胱注入療法の効果増強を目指す検討を行ってきた。薬剤の細胞内取り込みの促進がソノポレーションの根幹であるため、質量分析計による薬剤定量を行い、ドラッグデリバリーを示してきた。3次元培養を用いたin vitro、摘出膀胱を用いたex vivo、そしてin vivoでの検討を行い、これらの実施に5年の歳月を費やした。この間に体験した、どちらかというとメインではない結果と、今後の展望を述べたい。
本研究では行動実験と強化学習を用いて,コウモリの飛行やセンシング行動の分析を行った.エージェントの行動がコウモリのようにふるまうことができれば,報酬関数よりコウモリの行動機序を推測できると考えられる.そこで学習者(エージェント)の考えに相当する報酬関数を行動データにより推定し,障害物環境におけるエージェントのふるまいをコウモリの回避行動と比較した.その結果,障害物がある場合,エージェントとコウモリが似た回避ルートをとることが確認でき,コウモリが障害物を回避するだけでなく旋回を多く含まない飛行経路を選択していることが示唆された.一方,放射回数や放射方向に関しては両者に違いが見られたことから,エージェントへの入力源となるエコーの精緻化が必要であると考えられる.今後は音響シミュレーションを用いたエコーの時間振幅波形を基に,強化学習を行うフレームワークを開発しコウモリの行動機序のモデル化を目指す.
食品や医療用ゴム製品などの柔らかい製品であるソフトマテリアル(SF)に対して,各種の異物の混入が問題となっている.これらの製品に対する異物の検出は,製品の安全性や品質保証などの点で極めて重要な課題である.その方法として,取り扱いの容易さや安全性の高さから,弾性波を用いた研究が多くなされている.本研究では弾性波を用いたSF内部の異物検出方法として,空中超音波による非接触検査法について研究をしている.本報告では,空中超音波波源走査法により可視化された,SF内部を伝搬する波動の挙動情報を利用した異物検出および異物形状の可視化について検討を行った.
従来は、遠隔から極浅層地中探査を行うことは困難であったが、UAVからの音波照射加振と高感度LDVを用いた場合には、10 m以上の離隔でも、実施できる可能性がある。そこで、本研究では提案手法の基礎検討を行った。
非接触音響探査法では,非接触・非破壊で遠隔から内部欠陥の検出・映像化を研究してきた。複合材料,特にコンクリートに対して,空洞・ひび割れ・亀裂などの内部欠陥を検出するために,測定面に空中音波を照射・加振し,レーザドップラ振動計を用いて2次元振動速度分布を測定する。得られたデータを解析して,従来は,2つの音響学的特徴量の分布から内部欠陥の検出・映像化を行ってきた。今回は,スペクトル・フラットネスを導入して,欠陥検出の可能性を検討する。従来法が欠陥の輪郭抽出や諧調表示上,優れているが,円形空洞欠陥の場合で,解析周波数範囲を十分大きくとれば,スペクトル・フラットネスでも欠陥位置を検出できるとわかった。
本報告は,超音速旅客機の超音速飛行時に発生する騒音を2 次元CE-FDTD 法により解析している。Mach cutoff (MCO) を利用すれば,理想的にはブームを地上に到達させずに超音速飛行が可能であるが,大気乱流によるブーム散乱に起因したMCO 騒音が発生する。このMCO 騒音は,高度方向の音速分布に大きく依存するため,騒音評価はその地域・季節の音速分布を考慮する必要がある。また,加速時はフォーカスブームが発生することで,MCO 騒音とは異なる地表に大きな騒音が到達するが,ブームの地表到達地点のはるか手前であっても乱流により散乱される騒音はかなり大きくなることが示された。
長崎県端島(通称:軍艦島)にある築数十年から百年程度の古いの鉄筋コンクリート(RC)造建築物の劣化調査は,RC部材の劣化メカニズムの解明に有用である.本報では,打音法を用いた劣化調査を行い,表面及び内部劣化性状が打音音響特性に与える影響や,部材劣化性状と部材位置の関係について基礎的な検討を行った.結果より,打音法により内部劣化の影響を検出できること,階層あるいは平面分布で劣化進行程度に差が生じること,劣化の進行が主に1 kHz程度までの周波数帯域で音響特性に影響を与えることが示唆された.
音響放射力による微小物体の操作については古くから行われているが,空中における応用事例はそれほど多くない.一方,近年では,超音波トランスデューサアレイを用いて,高度化した情報通信技術を駆使し,空気中の音響放射力を制御し,非接触操作を行う研究が報告されている.本研究では,空中音響制御による非接触操作技術の実用化に向けた要素技術として,環境に依存しない完全非接触ピックアップを実現するために,半球状のトランスデューサアレイとブロック化されたマルチチャンネル制御法を提案・実装した.各チャンネルの位相と振幅は,ステージ上からの音響反射を含め最適化されている.これにより,目的の位置に音響トラップを生成することが可能となり,低反射ステージからだけではなく,音響的に反射率の高いステージ上からも完全非接触にてピックアップする手法を開発した.
航空機騒音観測装置で観測された騒音データの理解を深めるために、音の到来方向と音響情景分析をどのように活用するかを試行した。本稿では、航空機騒音観測装置で観測された騒音データの理解を深めるために 瞬間的な3次元の音の到来方向と音圧レベルの情報を利用して、静的モードと動的モードと呼ぶ音響情景分析の2 つの方法を示す。静的モードでは、昼間や夜間などの長時間にわたる単位球面上の累積騒音暴露分布を調べ、動的モード解析では、航空機や通過する車など、騒音イベントを引き起こす移動音源の軌跡を推定して地図上に表示する。これにより、騒音の発生源である音場の動的な状況を把握しやすくなることが期待される。
道路交通騒音の予測モデルASJ RTN-Model 2018 に含まれる建物・建物群背後の騒音の予測方法は,道路交通騒音マップ作成のための計算方法として活用が期待されている。同手法は,縮尺模型実験結果による実験式であるため,建物高さ,密度,道路からの距離に関して適用範囲が設けられている。多種多様な沿道状況に対応するためには,様々な立地状況に対する妥当性を調べる必要がある。そこで,沿道状況が異なる3 つの地域を対象に,騒音伝搬に関する実測結果と当該地域に対する計算結果と比較し妥当性を調べた。その結果,剛な地表面に立地した箇所では高い精度を有すること,地表面効果を考慮する必要がある場合には固い地面程度の地表面効果が適合する結果となった。設定する地表面種別,建物群がある場合の平均伝搬高さ等の計算における設定条件について今後検討する必要がある。
本報では道路交通騒音を対象としたノイズマップ推計プログラムの開発、およびその検証について報告する。プログラムはASJ RTN Model をベースに構築した。各種補正量については一部のみ実装しており、そのうちの建物・建物群背後における騒音減衰量の計算にデータベースを用いた分散処理システムを実装した。精度の検証について、国立環境研究所の公開する自動車交通騒音の常時監視結果のデータとの比較を行ったところ、全体的にレベルが低く推計されていた。またこれらの結果を踏まえてプログラムの課題を整理した。結果としてまだ多くの課題は残るものの、東大阪市全域の計算を一週間程度と現実的な時間で推計が可能となった。
近年の強力空中超音波の積極的な利用に伴い,超音波暴露の問題が顕在化している.音波は,外耳道を介して鼓膜へ到達するため,超音波暴露の影響を考える上では,鼓膜位置での受音圧を知ることが重要である.先行研究では,周波数が20k-40 kHzまでの空中超音波を連続照射したときの鼓膜受音圧を,外耳道内に形成される定在波分布から推定できることを示した.しかし,そのメカニズムの詳細については明らかになっていない. 本報告では,超音波暴露時の頭部周囲及び外耳道内外での音場形成について,パルス空中超音波を用いて実測と音響シミュレーションによる解析結果を基に検証を行ったので報告する.
低強度パルス超音波(Low intensity pulsed ultrasound; LIPUS)には種々の細胞刺激効果が知られている。本研究では軸索伸展阻害因子の1つであるNogo-Aを作用させた神経細胞へLIPUSを照射し、神経突起の伸展や形態に及ぼす影響を検討した。LIPUS照射により神経突起の長さの総和は有意に延長し、LIPUSによる神経突起の伸展促進効果の可能性が示唆された。今後、LIPUSと神経細胞・神経突起に及ぼす影響を正確に把握するとともに、詳細な作用機序を解明、および超音波照射条件の検討が必要である。
糖尿病ではコラーゲン等の劣化により骨ミネラル量が正常でも骨折リスクが高いケースがある.従ってミネラルを評価するX線法では正しい骨折リスクの評価ができない.本研究では骨中コラーゲンの評価が期待される光音響法を用いて糖化が骨に与える影響を評価した.まず近赤外領域のパルスレーザーの照射によって骨中に超音波が発生することを確認した.発生した超音波の振幅は,健常な試料よりも糖化試料で低下した.
近年,従来の開腹手術と比べ,腹腔鏡下胃癌手術後の膵液漏の発生率が有意に高いとする報告が見られる.その原因の一つとして,同手術で頻用される超音波凝固切開装置(USAD)の発生するキャビテーションが膵組織損傷を来している可能性がある.しかしながら,各種あるUSADがすべて同様のキャビテーションを発生するのかどうかに関しては詳細な報告がない.本研究では,物理的特性の解析や生体組織への直接的な作用を検討することによりUSADが発生するキャビテーションの実態を明らかにした.また,USADの発生するキャビテーションの感圧紙を用いた音場評価や,sonoluminescence,sonochemiluminescence(SCL)による可視化は初めての報告となる.特にSCLでは,比較的簡易かつ詳細にブレード周囲のキャビテーションを可視化できるため,USADの安全な使用方法を検討していく上で重要な知見となり得ると考えられる.
超音波・近赤外蛍光デュアルイメージング用造影剤として蛍光マイクロバブルを開発し,リンパ管ナビゲーション手術への応用展開を目指している.造影剤としての機能がリン脂質膜の状態に強く依存することから,リン脂質の相転移温度に着目し,超音波造影効果の検証を行った.まず,相転移温度が異なる六種類のリン脂質を用いてバブルを作成し,バブルの共振条件を推定することを目的にバブル懸濁液の音響減衰特性の評価を実施した.同様の評価を,相転移温度が異なる二種のリン脂質から作成したバブルについても実施した.次に,膜の状態が異なると想定される二種のバブルを民生の超音波診断装置を用いて観察し,それぞれの造影効果を定性的に評価した.その結果,どちらのバブルにおいても造影効果が確認された.
皮膚内部微小構造の形態学的観察に超音波顕微鏡が注目されている.本研究では,75 MHz超音波トランスデューサを用いた超音波顕微鏡システムへ,合成開口焦点技術(SAFT)を適応することによるヒト皮膚画像の画質向上性能を目的とする.直径30 ?mのタングステンワイヤーの超音波イメージングを実施し,超音波トランスデューサから異なる深度における対象物の幅を計測した.その結果,探触子の幾何学的焦点から0.5 mmまでの範囲にて,SAFTの適応により対象物は最大で50.9 %先鋭化された.ヒト皮膚画像においては,焦点外領域の皮脂腺構造のコントラストが良好になり,SAFT適応が高周波超音波顕微鏡を用いたイメージングの画質向上に有効であることを示した.
時間領域において、DBFで発生するグレーティングローブを抑圧する信号処理方法について示す。アレイセンサの各素子で受信したエコーに対して遅延時間を与え重畳して合成信号を作成し、この合成信号の振幅を合成前のエコーの振幅に基づいて設定した閾値と比較し、閾値より小さい場合は合成信号の振幅を低減させることで、グレーティングローブを抑制する。周波数500kHzで128素子のアレイセンサを想定して壁からのエコーをシミュレーションで求め、閾値処理でグレーティングローブを抑圧できることを示す。
独居高齢者の増加やコロナ禍での罹患者のホテル隔離などのため、人の遠隔見守りサポートの需要が増加している。しかし、浴室をはじめ、カメラ画像の利用はプライバシーの観点から避けたい。複数の非画像センサを組み合わせた方式があるが、新たな装置の設置が必要である。そこで本報告では、浴室等に初めから設置されている音響設備を用い、比較的プライバシー保護に有用である音を利用した人の見守り方式を提案する。 浴室に備えられた風呂釜・給湯コントローラの通話機能用のスピーカとマイクロホンにより浴室の音響周波数特性を取得し、それをもとに人の有無や姿勢の推定をすることを目指す。本報告では、シミュレーションと1/4縮小モデルによる実験を行った。浴室模型内に人体模型を入れたときの周波数特性と固有周波数の変化を検出する簡素な評価式を考案し、人の有無や姿勢の推定、それへの室温の影響などを検討した。シミュレーションでは人の有無は100%、人の姿勢は92%の精度で推定できた。実験でもほぼ同様の結果が得られた。
材料評価を非接触で行う新たな方法として,弾性波源を二次元走査して高速計測する弾性波源走査法に,空中超音波フェーズドアレイ(Airborne Ultrasound Phased Array : AUPA)を利用する手法について研究を行っている. AUPA を構成する超音波エミッタは,共振駆動系であるため,パルス状の音波を放射することは難しい.そのため,この超音波を用いて材料内でのガイド波伝搬イメージングを行うと,アーチファクトの発生や欠陥のイメージング精度の低下を生じさせる.これを解決する一方法として,材料中を伝搬させるガイド波の送信波にチャープ波を用いてパルス圧縮処理を行い,材料内のガイド波伝搬画像をパルス波伝搬画像として可視化することを考えている.本報告では,空中超音波励起によるガイド波のパルス圧縮の実現を目的に,AUPAから放射されるチャープ波を用いてモルタル試料に対してガイド波を励起し,試料内を伝搬するガイド波に対してパルス圧縮処理を施した場合の有効性について検証を行っている.
吹付けコンクリートは,施工性に優れていることから,地下空洞の支保などに広く用いられている.しかしながら,高所で叩き点検が困難な場合には,足場や高所作業車などが必要となるため,作業の効率化が課題となっており,遠隔から非接触で欠陥探査が実施できる手法の開発が期待されている.今回は吹付けコンクリート供試体を製作して,非接触音響探査法を用いた基礎検証実験を実施した.実験結果から,先行実施された地下大空洞天井部での実証実験と同じく欠陥検出が可能であることを明らかにした.
近年,光学技術やMixed Reality 技術の発展が著しい.我々は特に並列位相シフト干渉法を用いた偏光高速度干渉計や光学透過型Mixed Reality デバイスを用いた音場情報可視化計測システムを開発し,それらを用いた音場計測を行ってきた.前者は高速度カメラを用いるシステムで対象とする領域の音場を瞬時に定量的に2次元イメージング可能であり,マイクロホンを設置しにくい場所の計測を可能とする.後者は所望の位置から計測結果を実体に合わせて観察しながら音場を可視化計測可能であり,直感的な理解を可能とする.本稿では,これらシステムを用いた様々な計測実施例を紹介するとともに,課題を整理し今後の可能性を示す.
国家プロジェクト「内閣府ImPACT 八木プログラム(光超音波イメージング)」の成果のうち、ジャパンプローブが担当した半球型アレイセンサ(お椀センサ)の開発について説明する。このイメージングに用いられる半球型センサは立体的でフィボナッチ配列という複雑怪奇なパター1024chの素子配置であることが求められたため製作が困難であったが、これにジャパンプローブの持つコンポジット振動子の開発力で克服した過程を明らかにし、今後の受講者の参考として記す。最後に、国プロ終了後に設立したベンチャーLUXONUSの活動について、国プロ発の稀有な成功例として紹介する。