軟組織中の石灰化をカラードプラ法で観察すると、石灰化上に特異的なエンハンスが観測される.これを"twinkling sign/artifact"と呼ぶ.この現象は臨床診断において有用性があると考えられているが、その発生メカニズムは解明されていない.この現象の発生メカニズムを明らかにするため、超音波診断装置と石灰化を内包した擬似生体ファントムを用いて実験を行い、環境外乱が石灰化に与える影響を検証した.十分に振幅強度があるエコー部分には外乱振動が重畳されており、エコー信号から外乱振動の周波数成分を捉えることができた.また、外乱を制御することによって、外乱振動をエコー信号から除去し、Twinkling signが低減することを確認した.
病変肝超音波画像の振幅分布モデルであるマルチレイリーモデルを用いたびまん性肝疾患の定量診断手法を検討している。先行研究で,モデル化誤差を増加させる血管壁などからの反射波である非スペックル信号を除去する手法を提案した。本報告では,非スペックル成分を考慮した肝線維化定量手法の推定精度を検討するため,病変肝を模擬した組織モデルを用いて評価を行った。さらに,臨床画像を用いて評価を行い,提案手法の有用性を検討した。検討の結果,非スペックル成分を考慮した肝線維化定量手法により非スペックル成分を含む超音波画像でも病変肝の組織性状を高精度に推定できること,本手法は臨床画像においても正しく機能することが示された。
接触面を被検体に合わせて変形可能な柔軟性超音波探触子を開発し、生体模擬サンプルの計測と医用超音波への応用を述べた。まず探触子の表面直下の検出性能を確認するため横穴の開いたポリスチレンブロックの観測を行った。医用超音波への応用として歯科領域における歯の検査などを考え、顎モデルを用いて歯の構造の検査を行った。顎モデルの歯は背面からねじで固定されており、ねじ穴からの反射信号を観測できた。また顎モデルの歯肉部分からソフトプローブで検査を行い、歯の表面などからの反射信号を検出した。さらにアレイプローブを用いて乳腺ファントムの疑似腫瘍を画像化した。
チタン製前面板(受音面)の裏面に水熱合成チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)多結晶膜を成膜し、音響キャビテーションの発生を伴う強力な超音波の音場で測定をしても壊れないように工夫した耐音響キャビテーションの堅牢型ハイドロホンの開発を行ってきた。このハイドロホンは音響キャビテーションが発生する超音波洗浄器の強力な超音波音場に曝露しても表面電極の損傷はなかった。しかし、シール材として用いていたエポキシ樹脂が剥離してしまう問題点が挙げられた。我々はハイドロホンの基本構造、材料および製作手順を再検討して、この問題を回避可能な堅牢型ハイドロホンの開発を試みた。今回は、シール材を用いず表面電極とシースを直接接着した新型ハイドロホンを試作した。このハイドロホンでは忠実に超音波波形の非線形歪を表現できるとともにHIFUのような高強度の超音波の焦点においても破損しない耐久性を示した。
Brillouin散乱法は試料中を伝搬する音速および屈折率を測定する技術として知られている.この手法は非破壊・非接触で測定を行うことができ,また薄膜材料に対しても有効である.今回, 我々は90Rおよび180°散乱配置という2つの光学散乱配置を組み合わせて,c軸配向ScAIN薄膜の厚み方向に伝搬する音速と常屈折率の測定を試みたので報告する.
光波マイクロホンは音場や空気流を乱すことなくレーザビームで音を直接検出する。この方法は波動光学あるいは光学的フーリエ変換に基づいており、音による光位相変調の結果生じる極微弱回折光を検出することで電気信号を得る。本報では、原理と理論、受信特性、音計測法としての長所、これまでに行った基礎及び応用実験とその結果を示す。音波周波数範囲は主に空気中で100Hz〜100kHzである。最後に、開発の現状と実用上の課題を簡単に述べる。
完全に非接触で、遠隔からの電磁相互作用を用いたトルク印加により粘性を測定するEMS(Electro-Magnetically spinning)システムについて、とくに粘性のずり速度依存性を精度よく決定できるディスクタイプの回転プローブを採用した新たな装置を開発した。先に我々が開発し現在、市場展開されているEMS粘度計は、微小なアルミ球を回転プローブとして用いている。このシステムは不均一物質などの粘性測定が容易に実現できるという利点があるが、粘性にずり変形速度依存性があるときは球周辺の流動場を決めることが困難であり、流動曲線の決定精度は十分ではなかった。今回は従来から用いられているコーンプレートタイプの回転子に加え、平面円板による測定結果から微分演算を用いて粘性の流動曲線を厳密に再現する手法を提案する。
東京電力福島第一原子力発電所事故後の格納容器内の調査,特に燃料デブリ実態把握および漏洩箇所の調査に関連して,超音波アレイセンサを用いた開口合成法に超音波流速分布計測手法を適用させた手法を開発した.本手法では,超音波探傷法として物体内部の亀裂検査に用いられる開口合成法の信号処理工程に,センサの走査線上の瞬時流速分布を計測することができる超音波流速分布計測手法の信号処理を組み込むことで,物体表面形状と二次元流速分布の同時計測を可能にした.そして,燃料デブリを伴う漏洩部を模擬した流動場を用いた検証実験を行い,開発した手法の有効性を確認した.
非接触ピペット機能を実現するために,ウェルの下面より目標のウェルのみに凹面振動子によりMHz帯集束バースト超音波を照射することで, 1つの液滴を非接触で打ち上げることを検討した。また,液面の音圧分布を測定し,ハイスピードカメラによって液面の形状を観察することで,液滴打ち上げの機構を考察した。これに加え,バースト波の継続時間と打ち上げられる液滴の体積の関係を検討した。
音場の数値解析は,近年コンピュータを用いた数値解析が行われることが多くなり,数値解析の手法がこれまでに多く開発されてきた.時間領域法の一つであるCIP-MOC法は,音場の物理量とともにその空間微分値を用いることで時間経過に伴う数値分散を大幅に抑えるという特徴がある.本研究では,2次元の計算領域において,不均一グリッドを用いたCIP法とperfectly matched layer (PML)を組み合わせて用いる方法について検討した.PMLの吸収性能を評価した結果,不均一グリッドに対してPMLを設定した場合,不均一グリッドのグリッド比を変化させても,吸収性能が著しく低下することはなく,均一グリッドの時と同様に適用可能であることがわかった.また,いずれのグリッド比においても,PMLの入射角が大きくなると吸収性能が低下することが示された.
本報告では,粒子速度を用いたCE-FDTD法を提案している。CE-FDTD法は,波動方程式の2階微分項を差分化する際に座標軸方向だけでなく,対角線方向も参照することで高精度化する手法である。このようにCE-FDTD法で用いられている多方向参照の考え方を音圧と粒子速度を用いた支配方程式により定式化する標準のFDTD法に導入し,高精度化できることを示す。2次元音場について数値実験を実施した結果,本手法はCE-FDTD法と同等の精度を有することが示された。
光音響イメージングは、短パルスレーザー照射による光エネルギーを吸収した分子が熱を放出し、その熱による体積膨張により発生した音響波によるイメージングである。本研究では安価でコンパクトな半導体レーザーを用いた光音響イメージングにより、通常の超音波イメージングでは信号を得にくい骨内部や、疾患モデルの組織を可視化した。さらに炎症のバイオマーカーであるマクロファージを金ナノロッドにより標識し、光音響信号を得たので報告する。
体内の温度分布の画像化は,炎症性疾患の診断,癌の温熱療法での温度制御の点において重要である.しかしながら,温度の精度や空間分解能の点で,実用的な手法はない.そこで非侵襲,高精細な光音響イメージングによる組織内の温度分布計測手法の開発をめざし,初期段階として種々の生体構成要素からの光音響信号強度と温度の関係性を調べた. まず,各構成要素を入れたプラスチックセルに複数波長の光を照射して光音響信号を計測し,吸収が大きく温度計測に適する波長を選択した.次に選択した波長において光音響信号強度と温度の関係性を求め,構成要素によりその関係性が異なること,また波長によりその関係性が異なる要素があることを明らかにした.
Ultrasound holds tremendous therapeutic potential at low intensities that are near or below the clinical diagnosis limit, presumably acting through a mechanical interaction pathway. Our current scientific understanding of how ultrasound interacts with living cells is however quite inadequate. In this presentation, we shall discuss a new series of single-cell analysis findings on the non-thermal wave-matter interactions of low-intensity ultrasound and how they can be harnessed for therapeutic applications. The biophysical interactions will particularly be demonstrated through direct observations acquired using live optical and confocal microscopy tools.
最近の研究では、超音波による発光メカニズムは気泡内気体のプラズマ化による"ソノプラズマ"と言われ、反応場の圧力の違いを除くと超音波とプラズマと間に一定の類似性はある。そこで、第一に超音波化学の既報の成果とプラズマ化学のそれとを比較した結果について紹介する。次に、抗酸化作用を有する白金ナノ粒子を併用した場合の影響について実験し、得られた結果について考察する。
本研究では,壁と気泡を同一視野で捉えることを可能とするよう高速度撮影システムを改良し,気泡近傍の壁の堅さが超音波照射下での気泡のふるまいに与える影響を調べた.硬いカバーガラスと細胞に類似した硬さのゲル近傍に浮遊している気泡のふるまいを比較した結果,ゲル近傍でのみ80%の割合で気泡が壁から離れていく現象が観察された.一方,細胞の核上に付着した気泡を観察した結果,硬さがほぼ同じであるにも関わらず,気泡が離れていく割合は11%に低下した.この結果は,気泡が細胞に付着することによって膨張収縮が抑制されたためと考えられる.これらの知見は,効率的な生体内ソノポレーションの実現において細胞と気泡の接着条件を考慮することが重要であることを示唆する結果である.
生体を模した3次元培養系で超音波と超音波造影剤Sonovue®によるシスプラチンの殺細胞効果への影響を検討した。セルカルチャーインサートを用い、血管内皮細胞シート層、ヒト咽頭癌細胞と線維芽細胞の共培養層の2層からなる3次元培養系を作製した。シスプラチンとSonovue®存在下で超音波(1.3 MHz, 100 cycles/1 kHz PRF, 1.0 MPa p-p)を30秒間照射した。超音波照射後もシスプラチン存在下で4日間培養した。照射直後にはSonovueの添加によって血管内皮細胞が剥離していたが、4日後には細胞剥離は確認されなかった。また、シスプラチンを添加した全ての群で血管内皮細胞の形態が無処置群と異なった。しかし、共培養層の細胞生存率には処置による差がなく、また腫瘍細胞と線維芽細胞の比率にも違いはなかった。今回の条件では、Sonovue®と接した血管内皮細胞への効果は見て取れたものの、腫瘍細胞への効果は明瞭ではなかった。今後、各種条件の調整を検討している。
これまでに我々は、リポソームにパーフルオロプロパンを封入したバブルリポソームを開発し、超音波と併用することで様々な細胞に遺伝子導入できることを見出した。そこで本研究では、本遺伝子導入システムを利用した脳への遺伝子導入の可能性について評価した。バブルリポソームとプラスミド DNA をマウス尾静脈から全身投与し、経頭蓋的に超音波を照射した。その結果、超音波を照射した脳において選択的に遺伝子発現が認められることが明らかとなった。このことから、本方法が低侵襲的かつ脳選択的な新たな遺伝子導入法になるものと期待される。
超音波の生体作用を効率よく生成し、治療効果を高めるための増感剤として、超音波照射によりマイクロバブルを生成する液体微粒子(PCND)の効果を動物実験にて検証した。マウスを用いた実験により、加熱凝固効果およびキャビテーション効果いずれについても腫瘍ダメージを約1ケタ低下させることが可能であることがわかった。新規腫瘍治療モダリティとして、加熱凝固、キャビテーションそれぞれの効果を用いる治療法について検討を進める。
鉄骨造デッキプレートスラブにおける床振動性能の予測を目的に、面内面外変位連成型有限要素法(以下、連成型FEM)による振動応答解析を検討した。はじめに、鉄骨造デッキプレートスラブの減衰性状に関して実測調査を行い、減衰特性値の傾向を確認した。続いて、鉄骨造デッキプレートスラブの振動応答に関して、実測された減衰特性値に基づき、連成型FEM を用いてスラブ断面ならびに鉄骨梁を再現した解析モデルにより検討を実施した。振動応答の解析結果について、実測結果との比較検証を実施した結果、標準重量衝撃源ならびに歩行加振による応答振動に関して、実測による傾向との概ね良好な対応を確認した。
スポーツ関連施設のデッキプレート合成スラブの振動特性を測定し、有限要素法による数値解析と比較した。測定結果より、デッキプレート合成スラブの1 次固有振動数は、7Hz〜13Hz の範囲にあった。損失係数は、0.01〜0.5 の範囲にあり、周波数に比例する傾向が見られたもののデータ数が少なく断言はできない。歩行時の振動応答は、建築学会の居住性評価では、ピッチ歩行時は、V-70〜V-90 の範囲にあり、事務所としての振動性能は許容範囲であった。小梁を考慮してFEM 固有値解析を行った結果、一例を除き実測値の0.8〜1.3 倍の範囲となり概ね一致していたが、振動応答解析は、ピッチ歩行時の結果に誤差が生じており、解析時の加振方法に検討の余地がある。
日本にマッチした情報公開のあり方を明らかにすることを目的として,その基礎的知見を得るための第一段階として諸外国及び日本におけるEMS導入状況調査を行った.その結果,世界の主要空港ではwebによる情報公開システムのように,オンデマンド方式によるものが増えていることがわかった.一方で,COGのように,特定の場所でのみの公開方法や,成田空港における電光表示板のように,実際の状況を体感しながら,現状を確認することも有効な手段であること分かった.
地方都市3都市(長野市、松本市、上田市)と、大都市3都市(横浜市、名古屋市、大阪市)の小中学校を対象に音環境に関するアンケート調査を実施し更にGISによる学校周辺状況を検討し以下の事が確認できた。大都市では、住居系、商業・工業系、田園・山間系のすべてで、地方都市では主に住居系で音に関する意見が寄せられていた。地方都市・大都市ともに第一種住居専用地域で音に関する意見が寄せられる割合が大きかった。半径500mの周辺人口が1,000人を超えると意見を音に関する意見が寄せられる傾向があった。
風速や温度の鉛直分布により生じる音速分布は,屋外騒音伝搬に顕著な影響を及ぼす。このような気象影響に対して,これまでフィールド実験や波動性を考慮した数値解析による検討が行われてきている。実際上問題となる,航空機,自動車,鉄道車両などの音源は,それぞれ特有の指向性を有するが,多くの検討では,音源は無指向性点音源として単純化されてきた。我々は,この音源指向性の影響に対して,屋外実験およびGreen’s Function Parabolic Equation法(GF-PE法)を用いた検討を行ってきた。本報告では,GF-PE法において任意の音源指向性を取り扱う方法について述べ,提案する計算手法の妥当性を実験結果との比較によって確認する。
時間幅の短い超音波パルスを送信し,計測対象から反射したエコーの時間遅れから対象との距離を計測するパルスエコー法による,路面上の障害物の検知・判別について検討を行っている.まず,周囲の騒音など環境雑音の影響を低減するため,M系列を用いたパルス圧縮を適用することでエコーの信号対雑音比を向上させる手法を提案している.しかしながら,受信した信号には障害物からの反射波に加えて,路面の細かい凹凸からの反射波も含まれており,それらの判別が困難であった.本報告では,アスファルトのようなランダムな形状を持つ路面からの反射波を計測し,その基礎的な性質について評価を行う.
膵臓癌は初期にはほとんど自覚症状がなく、進行も早いために早期発見が非常に難しいという特徴があり、発見された段階で摘出手術が行えないほどに進行している事例が多々ある。そこで我々は、摘出手術が行えない膵臓癌に対する代替え療法として超音波によるアポトーシス誘導を考えている。今回は、当研究室製の周波数150 kHz定在波型超音波照射システムを用い、ランジュバン振動子に周波数150 kHz、電圧185 Vp-pの連続正弦波を印加することにより、膵臓癌細胞株MIA-PaCa2に超音波を照射した。24時間後それらの細胞をAnnexin V-FITCとPIで染色し蛍光顕微鏡で観察した。その結果、照射時間30 sもしくは1 minではアポトーシス誘導の傾向が見られた。
近年、適応型信号処理を用いた医用超音波2次元画像化方法が多く提案されている。実時間イメージングに向けて計算量の低減が求められ、Beam-Space(BS) Capon法が提案された。しかし従来のBS Capon法では多回数の焦点形成、Element-space(ES)からBSへの変換が求められるため、実時間イメージングにむけて更なる計算量低減が必要である。本研究ではステアリングベクトルを用いて焦点形成を実現し、計算量の低減を行った。加えて推定電力を正確に推定する手法を提案した。その結果、数値シミュレーションにおいて計算量を10分の1以下に低減し、かつ高コントラスト、高分解能なイメージングを達成した。
糖尿病になると,骨密度が十分であるにも関わらず骨が折れやすくなる症例が報告されている.これは骨中のコラーゲン内に生じた後期糖化反応生成物(AGEs)による非生理的架橋が原因と考えられる.そこで本研究では,市販のコラーゲン薄膜にAGEs架橋を人工的に生成し,局所領域の音速測定が可能な顕微Brillouin散乱法を用いてコラーゲン中の縦波音速の変化を実験的に検討した.AGEs架橋が生じた試料表面を触針段差計と光学顕微鏡で確認したところ,糖化前より表面粗さが増大した.またAGEs架橋を含む試料では音速が有意に低下した.吸水性も大きく変化し,AGEs架橋試料は吸水による音速低下が著しく保水性も高かった.
がん治療への応用を目指してマイクロバブル超音波造影剤ソナゾイド(MB)と周波数掃引超音波を併用した細胞殺傷効果と、トリパンブルー色素の細胞内摂取の効果について検討した。MBを加えて超音波を 5秒または15秒間照射した場合に、アップチャープに比べてダウンチャープに高い細胞殺傷効果とトリパンブルー色素の細胞内摂取と考えられる現象が認められた。周波数掃引超音波照射方法をMBと併用した超音波治療に応用できる可能性が示唆された。
モノリシック集積化チップに適したシリコン基板上のPZT圧電機能構造を得るために、本研究では、微小電気機械システムの分野におけるPZT圧電膜の提案をする。層構造と組み合わせた正方形のダイアフラムは、適応性のあるデバイスとして設計され、有限要素法を用いたシミュレーションにより、その構造の最適化と性能の評価を行う。シミュレーション結果より、提案するデバイスは、従来のトランスデューサに比べ高い周波数特性を持ち、イメージングシステムのための次世代超音波アレイに応用できることを示している。
脈波伝搬速度法は,動脈壁弾性特性の非侵襲的計測法として有用である.通常の脈波伝搬速度法では,数十cm 離れた2 点で脈波波形を測定し,それら2 点間の弾性特性を評価しているが,毎秒1000 枚を実現する高フレームレート超音波を用いればより局所での脈波伝搬速度計測が可能である.一方,波動伝搬解析においては一般的にフーリエ変換を用いて時間周波数と波数を同定する手法が用いられるが,超音波イメージングにおける典型的な描画領域幅である40 mm に対して脈波の波長は1 m 程度と長いためフーリエ変換による周波数・波数解析の分解能が悪く,波数の同定が困難である.本報告では,高フレームレート超音波を用いて計測した動脈壁振動波形の位相情報を用いて,動脈を伝搬する脈波の波数を高分解能に可視化する手法を提案する.
探触子が柔軟で任意曲面に対して接触可能な柔軟性超音波探触子を開発し、工学応用として非破壊検査、医用超音波への応用として歯科領域や乳腺外科への適用を試みた。基礎特性として表面直下の探傷性能を調べ、鋼の表面直下1mmの探傷を行うことができた。非破壊検査では溶接部の探傷や配管減肉の観測を凹凸のある部分や曲面から探触子を直接接触して行った。配管はステンレスの減肉観測を行い、表面直下1.3mmの減肉を観測することができた。歯科領域では抜歯したサンプルを用いて歯の内部を歯の表面から観測し、歯の2層構造を観測した。また、乳腺ファントムを用いて疑似腫瘍を画像化した。
汎用型超音波診断装置を用いた脂肪肝の定量化機能の開発を目的とし、生体組織の減衰係数の推定に適した手法および送受信条件について検討を行った。推定法としては、包絡振幅を用いたReference phantom method (RPM)およびTwo frequency differential method (TFDM)を使用し、送受信パルス波数をいくつか変化させた場合の結果を比較したところ、RPMの推定精度が比較的高く、また波数が多い方が推定精度は高かった。さらに、局所の推定値を使用して減衰量の2次元マッピングを生成した。
本研究では,パラメトリックスピーカによる両耳間音場形成を調査すために,人の頭部を円柱体および球体にモデル化し,パラメトリック音の散乱場を逐次近似法に基づき理論化した.そして,両耳間強度差(Interaural Level Difference)および両耳間時差(Interaural Time Difference)について数値解析を行い,理論と実験とを比較した.その結果,両者は大まかに一致するものいくつ相違が現れ,よって球状散乱体を用いた散乱音場に対する今回の数値解析の有用性に更なる検討が必要であることが分かった.
超音波診断装置で用いられる高周波超音波は媒質の粘性による吸収が大きいため、深達度が浅くなる。この問題に対し低周波であるパラメトリック差音を用いるのが有効だと考えられる。本研究は、吸収の大きな媒質中における深遠部において、高周波超音波に比べパラメトリック差音の深達度が優れていることを確認し、評価することを試みる。そのために吸収媒質層を実験系に組み込み、高周波超音波とパラメトリック差音の減衰を測定した。その結果、吸収の大きな媒質中を十分遠方まで伝搬させた場合、パラメトリック差音の深達度の方が優れていることが示された。
本研究では、ポリマ振動体を用いて広いダイナミックレンジと高分解能を有した磁場センサを試作した。リン青銅箔をバイモルフ振動子の自由端につけ、垂直方向に磁場を与えると、箔の両端に電磁誘導により磁場に比例する電圧が生じる。センサの感度を向上させるため、振動損失が小さいポリマを使用し、高い振動速度を得た。磁場範囲1?5700 Gにおいて実験したところ、出力電圧は線形に増加し、1 Gの分解能を得た。本報告では本センサの基礎特性を検討した。
原子力プラント等の異材溶接金属の柱状晶組織(多結晶組織)は音響異方性を発現することが知られており,さらに粒界散乱によって超音波が減衰するため,非破壊検査の精度低下の一因となっている.ここでは,フェーズフィールド法を用いて3次元多結晶モデルを生成し,このモデルを用いて超音波伝搬解析を行う技術を開発した.オーステナイト系ステンレス鋼試験片の数値モデルに対して波動伝搬シミュレーションを行った.また,レーザー振動計で試験片を可視化した結果と比較することによって,本解析法の妥当性確認を行った.さらに,パラメトリックスタディによって粒の大きさ・分布形態が超音波の伝搬に及ぼす影響について考察した.
構造物の厚さを非接触で片面から共振法により計測する方法を提案した。空中超音波で対象物に超音波を送信し、発生した共振信号を計測する。共振信号は対象物の材質、厚さにより特定の周波数が含まれる。共振信号の周波数を調べることで対象物の厚さを推定した。基礎実験として10[mm]から15[mm]の厚さの鋼板を共振法で計測し、それぞれの厚さを推定した。また、探触子と対象物との距離を変化させることで共振の発生が変化することを確かめた。減肉検査の模擬実験として円形に削った試験体を用いて共振法による観測を行い、健全部と減肉部において共振状態が異なることを確認した。
本研究では,超高強度空中超音波と光学機器を組み合わせた非接触の非破壊検査技術の開発を行っている.本手法は,空中超音波によって励振させた対象物の表面の振動速度分布を利用して欠陥のイメージングを実現している.本報告では,従来の測定対象にしていたコンクリート内部の欠陥よりも,浅層に発生した微小き裂の検出を対象にしている.ここでは強力音波の非線形性により発生した高調波成分を利用したイメージングを試みている.その結果,表層付近に存在する微小き裂はより高次の高調波成分の振動速度特性を用いることによって,より精度良くき裂をイメージング出来ることが確認された.
我々の開発している非接触音響探査法では、空中音波を用いて遠隔から非接触で、コンクリート構造物の表面近くのひび割れなど欠陥を計測する手法及び欠陥検出アルゴリズムを考案してきた。今回は、鉄筋腐食の度合いが異なる鉄筋コンクリート供試体を用いて、表面から内部に向かう欠陥の状態を映像化する試みを行った。また、コンクリート強度が異なる円筒を埋め込んだコンクリート供試体に対して、非接触音響探査法で得られるデータから強度推定が可能であるかを検討した。
従来の非接触音響探査法では、2次元的にスキャンする際の計測時間の長さが問題となっていた。この原因は1回に送出する音波の時間的な長さに起因しているが、単純に短い時間内に複数の周波数を混ぜて送信してしまうと、十分な加振力が得られないばかりか、時間ゲートも有効に使えないため、S/N比の悪化を招いてしまうことになる。今回は、時間ゲートを有効に使用しながら、かつ周波数ゲートも追加して音波送出が可能な時間帯を最大限有効に用いることができるマルチトーンバースト波を用いた非接触音響探査法の高速化について検討を行った。
我々は、高速且つ高精度な超音波イメージング法および変位計測法を開発している。そして、例えば、医療応用を行っている。これまでに、様々な技法を開発したが、その中には、横方向変調や組織変位ベクトル計測等がある。本稿では、高速性と精度に注目し、まず、代表的なDAS (Delay-and-Summation)処理の比較を行っている。さらに、アナログまたはデジタルの微分処理を応用した高速な新しいヒルベルト変換法およびその応用について報告している。また、シングルフォーカスビーム生成時や複数の偏向平面波送信による高速フレームレート時における多重スペクトル周波数分割および低周波スペクトル除去(フィルタリング)による新しいover-determined system (ODS)を用いた高速且つ高精度な変位計測について報告している。また、横方向変調時における高速且つ高精度な新しいデモデュレーション処理について報告している。
本研究グループでは,高速超音波イメージングによる生体組織の動態解析に取り組んでいる.生体組織の動態解析には,変位・速度の推定法が必要である.2次元変位推定法としてスペックルトラッキング法が用いられているが,受信超音波信号のサンプリング間隔未満の変位を推定するためには補間処理が必要であるなど,計算負荷が大きい.高速超音波イメージングでは,秒間最大数千枚という膨大な数の超音波像を処理する必要があるため,計算負荷を低減する必要がある.本報告では,補間を必要としない,2次元フーリエ変換を用いた2次元変位計測手法に関する検討を行った.本手法では,受信超音波RF信号の2次元周波数スペクトルの位相のフレーム間偏移が,対象の2次元変位に依存することを利用して変位の推定を行っている.受信超音波信号の周波数帯域は有限であるため,SN比の悪い周波数帯域の位相を用いた場合には変位の推定精度が劣化する.本研究では,振幅スペクトルを重み関数として使用し,SN比の悪い周波数帯域の信号の寄与を下げる重み付き最小二乗法を用いて変位の推定を行った.ファントムを対象に基礎実験を行い,自動ステージにより発生させた既知の2次元変位を推定したところ,偏り誤差は距離方向,ラテラル方向ともに1.3%であった.
レンズ結像式の焦点面アレイドプラオルソグラフィー映像装置の臨床実用化へ向けて、レンズの焦点同志の間で1:1結像させて1ピクセル分のレンズ結像受信を行った結果を報告する。先に開発した位相連続フレネルレンズを用いている。
運動速度と反射源性が可及的に正確に把握出来る運動物体反射源として、ドプラ有感領域を斜めに横切って落下する標準反射源の個体球を利用する事を提案する。この手法はJISやIECの機械仕掛けで上下運動する標準反射源鋼球ターゲットのドプラファントムよりは遥かに簡素で実現、実施しやすく、精度も再現性も等価な物になり得ると期待される。この方式は水中のみならず空中でも、また超音波のみならず電磁波でも利用可能な手法である。実験的実証用の装置を製作し、水中および空中において、各々の波に関して基礎的な実験をした。