古くより,津波発生に伴う音場(気圧)変化が観測され,その現象の研究が行われている.音場は,津波よりも伝搬速度が速いことがしられており,これを利用するころで津波の早期検知への応用も考えられる.しかし,この現象に関する津源や大気環境などのモデルを考慮した詳細な数値解析は十分に検討されていない.津波の発生頻度を考えると,再現性の高い数値解析の確立は重要である.そこで,本研究では波源および大気モデルを考慮した3次元の大規模伝搬解析を実装し,津波によって誘起される低周波音波について数値的な検討を行った.東北地方太平洋沖地震の観測結果と比較評価し,実測データに近い波形を数値計算により再現することに明らかにした.
我々の研究グループでは,これまで 768kHz/32bit ハイレゾ録音システムを利用した広帯域高解像音響計測を用いて,ヒトの可聴音域を超えた音響信号の計測・解析・評価の研究を行ってきている.本研究では,落下音を利用した硬貨の識別について,広帯域高解像音響計測と機械学習を組み合わせる手法を提案する.日本国の現行硬貨の6種類の識別,およびデザイン性が類似している3種類の硬貨に対して,効果の落下音による識別の可能性を検討し報告している.結果として,広帯域高解像音響計測と機械学習を組み合わせることで,精度の高い識別が可能であることが示され,広帯域にわたる音響特性は硬貨の識別において精度の向上に寄与することが明らかとなった.
コウモリは,超音波を放射し,周囲からのエコーを聴取すること出、周囲環境を把握している.これをエコーコローションといい,コウモリは,聴取したエコーによって行動を決定している.しかし今までのコウモリのエコーロケーションに対する研究では,飛行中のエコーの取得が困難であるために,エコーを含めた検討を行うことができなかった.本研究では,音響計測を伴う行動実験に加えて,音響シミュレーションの一つであるFDTD法(Finite-difference time-domain method)を利用することで,コウモリが聴取していたエコーの再現を行った.その結果,コウモリがどう空間を複数回飛行した時に,初回飛行と空間習熟後の飛行では,エコーによる認識空間に違いが見られ,またエコーの到来方向がパルスの放射方向と飛行の旋回角速度に影響を与えていることが示唆された.
積雪寒冷地に置いて防災行政無線を有効に活用するための基礎資料整備の第一段階として,空中に存在する雪(降雪)が音の伝搬に与える影響を調査した。調査は,伝搬距離を100mおよび15mに設定した試験を行い,インパルス応答の計測に合わせて,ディストロメーターを使用して降雪強度及び雪粒子の落下速度を,スノー・パーティクル・カウンターを使用して飛雪流量を計測した。その結果,最大降雪強度8[mm/h]程度,最大飛雪流量2[g/cm2・min]程度の条件においては,インパルス応答のエネルギーの増減に降雪が与える影響は見られなかった。また,周波数帯域ごとのエネルギーでは,500Hz帯域においてベクトル風速と正の相関が見られたが,周波数帯域ごとの差はほぼないことが分かった。
2018年に公表された“ENVIRONMENTAL NOISE GUIDELINES for the European Region”では,時間帯補正等価騒音レベル(Lden)と高度の不快感(%HA)との関係,夜間等価騒音レベル(Lnight)と高度の睡眠妨害(%HSD)との関係が,音源別に示されている。これらの曝露反応関係をベースにして,ガイドライン曝露レベルが勧告値に設定されている。筆者らは,既報において,社会音響調査データアーカイブに収納されているデータセットに,近年の調査により得られたものを加え,Ldenと%HAとの関係を音源別に示した。本稿では,既報と同じデータセットを用いて,WHOガイドラインと同様にカットオフ値を72%としたLnightと%HSDとの関係を報告する。
本稿では北陸新幹線鉄道沿線で記録した騒音と振動による,生活活動への複合効果をフランス在住者に評価してもらった結果について示す。実験参加者は健常な聴力を持つ19から23歳までの男女29名(平均:21.1歳,標準偏差:1.1)であった。実験はフランスのINSA Lyonにある半無教室で行い,先行研究と同様に音刺激として最大騒音レベル50,60及び70dBの3種類を,振動刺激は鉛直振動の3種類(なし,65dB,75dB(Lvmax))を用意した。実験参加者には読書と計算作業を行ってもらい,30秒間の刺激曝露に対して,うるささと振動の知覚,作業の妨害感をICBEN5段階尺度(フランス語版)で逐次評価してもらった。
マイクロバブルを用いる超音波イメージング(造影超音波)では,マイクロバブルから得られる非線形エコーによって超音波画像のコントラストを大幅に向上させることができる。これまでに符号化パルス圧縮を組み合わせることで,造影超音波のコントラストを超音波の音圧を上げずに向上させる手法が報告されているが,マイクロバブルからのエコーの周辺に非線形成分によるサイドローブが発生し,信号帯雑音比(SNR)が低下するという問題があった。この非線形サイドローブは使用する2値符号(コード)によってその形状や振幅が変化するため,最適なコードを選択することでSNRの低下を抑制することが期待できる。本論文では,Golayパルス圧縮において最適なコードを探索,決定する手法について述べる。
医用超音波分野において,2次元速度推定法が各種生体機能計測において必要となる.速度推定法では超音波画像の画像分解能やノイズが推定精度に影響を与える.本報告では,超音波画像の取得システムのシステム特性を取得し,特性に基づいてフィルタを生成した.フィルタ後の信号に2次元速度推定法を適用し速度推定を行うことで,速度推定精度の向上を図った.ファントム実験により推定精度を評価した結果,方位方向の偏り誤差を-19.7%から2.7%に低減された.
我々の先行研究において,エコー振幅包絡特性の変動が散乱媒質の温度変化に関連する知見を示してきた.この変動は熱膨張による散乱体構造の変化を捉えていると考えられるが,その機序はこれまで検証できていない.本研究では有限要素法を用い,熱膨張時の散乱体分布変化の様子を評価した.数値計算により線形性剛体の三次元変位および温度を算出し,無作為に分布した散乱体の位置を各時刻の変位に基づき更新した.媒質の熱特性として,熱膨張係数,熱伝導率,比熱,初期散乱体数密度を可変的に設定した.先行研究の実計測実験を模し,7.5 MHzリニアプローブの送受信音場におけるエコー信号を数値計算した.仲上分布の形状パラメータの対数変化量は散乱体数密度の変化量と関連する傾向を示すとともに,熱膨張による体積変化に起因しており,温度変化を間接的に捉えていると考えられる.
皮膚毛細血管とは,組織の健常性に関わる重要な血管系である.毛細血管のモニタリングにより組織の健常性及び疾患の状態把握が可能となるが,そのための定量評価手法は未だ発展途上にある.当研究室では,皮膚毛細血管の定量化に向け,撮影装置及び血流速度・血管径推定手法の開発を進めてきた.本研究では,カフの圧迫により血流状態を変化させた場合の皮膚毛細血管の撮影を実施し,推定手法の妥当性検証を行った.その結果、圧迫に伴う妥当な血流速度及び血管径の変化を推定可能であることを確認した.よって,推定手法の有効性が示唆された.
大動脈二尖弁(BAV)は,人口の1?2%に発生する先天性心疾患であり,患者によってさまざまな形状がある.BAVの患者は,弁の狭窄(AS)と大動脈弁逆流(AR)を起こしやすく,大動脈瘤を発症する可能性が高くなる. BAVの形状,狭窄および逆流の程度,および大動脈瘤のリスクと位置の間の関係は,血行動態的に明らかにされていない.本研究では,左心室大動脈のイメージベスト3次元一体化モデルを用いて,大動脈弁逆流が大動脈血行動態に及ぼす影響を調べた.その結果,BAV-ARモデルでは壁せん断応力とOSIが増加し,逆流の影響でエネルギー損失が増加することがわかった.
術中のリンパ節郭清の侵襲を最小限に抑え,治療効果を高めるために,精度の高いがん転移のスクリーニングが求められている.我々の先行研究では、高周波超音波で摘出リンパ節の癌転移を90%以上の正診率で評価可能である[1]が,多様な腫瘍の特徴について,三次元空間のミクロな音響特性と組織構造の関係性を把握することで,より高精度な評価や in vivoへの応用が可能となると考えられる.本報告では,中心周波数250MHzの振動子と自作の超音波顕微鏡システムを使用し,超音波像と病理像と対応付けることで摘出リンパ節の正常部および腫瘍部の三次元の音響特性評価を行った.結果として,リンパ節の腫瘍部は正常部に比して音速が低値を示すことが確認された.
造影超音波と近赤外蛍光イメージング法の両者で造影剤として機能する多機能造影剤の開発を行っている.造影剤の基本構造は,超音波造影剤であるマイクロバブルを安定化させるためのリン脂質膜シェルに近赤外蛍光イメージングの造影剤であるインドシアニングリーン誘導体を担持させたものである.これまで,プロトタイプ造影剤の基本性能として,粘弾性的性質,蛍光特性について実験的に評価してきた.本報告では,安定性(寿命)を実験的に評価した結果について報告する.
スパースビューCTは,投影像数を削減した画像再構成手法である.短時間の撮影が可能となる一方,再構成像にスポーク状のアーチファクトが発生する.本研究は,マイクロCTの生体応用に向けた,スパースビューマイクロCTにおけるノイズ除去手法を提案する.提案手法では,スパースビューサイノグラムからフルサンプリングサイノグラムを推定するネットワークを教師あり学習により構築した.結果,提案手法はスパースビューサイノグラムの効率的なアップサンプリングを実施し,再構成像に生じるスポーク状のアーチファクトを低減した.また,定量評価においても大幅な改善を示した.
鋭い指向性を持った強力な空中音波を遠距離に届ける技術が必要とされている.筆者らはこれまでこの目的のための音源として,円形たわみ振動板型空中超音波音源に複合型反射板を取り付けた音源について検討を行ってきた.本稿では,振動板から放射される音波が振動板と反射板で繰り返し反射する形状の平面反射板を併用した円錐台形反射板について検討をした.また,円錐台形反射板の長さを変えた場合の音波の指向性,得られる音圧,および音波の減衰特性の検討を行った.
空中超音波センサは小型であることが求められるため,強力な音波が発生しにくいことが問題となっている.そこで本研究では,小型でありながら一方向に強力な音波を放射する音源の開発を目的としている.これまで,一様棒の一部に溝加工を施すことで,振動面を同一方向に大きな振幅で振動の節が無く振動させることによって,小型でありながら正面方向の遠方にて高い音圧の音波を得ることができることを示した.本報告では,音波の放射特性について検討を行った.その結果,単一指向性で振動面の垂直方向にこれまでにない高い音圧が得られることがわかった.
レーザ励振源を二次元走査して高速計測を行う弾性波源走査法(Scanning Laser Source technique : SLS)を,強力空中超音波を利用して実現することを目指している.その一方法として,空中超音波フェーズドアレイ(Airborne Ultrasound Phased Array : AUPA)を用いた弾性波源走査法による固体材料に対する非接触非破壊検査の研究を行っている.AUPAではその構造上,放射音波にサイドローブやグレーティングローブ(GL)が発生し,非破壊検査時にはアーチファクトを生じさせるが,AUPA上の超音波エミッタの配置条件を適切にすることで,その発生を抑制することができる.本報告では,直径8mmと10mmの超音波エミッタ(駆動周波数40kHz)を用いることにより,超音波エミッタ間距離を変えた場合の音波放射特性について,発生する高調波音波も含めた検討を行った.その結果,直径8mmの超音波エミッタを用いた場合には,高調波音波も含めGLの抑制が図れることが確認できた.
コウモリは超音波を照射し,周囲からのエコーを処理することで空間情報を取得している.これまで1送信(口または鼻),2受信(両耳)のコウモリの簡素なセンシング機構の特異性やユニークな戦術を様々な行動実験を通じて明らかにしてきた.本研究では, ターゲットからのエコーを実測し,SVMを用いた形状分類や,またFDTDシミュレーションによる反射波形を基に,コウモリが少ない情報量でエコーロケーションによって物体形状をどのように認識しているのか考察した.
我々の研究グループでは, 拍動によって頸動脈壁に生じる2次元の粒子速度を受信超音波信号の位相偏移に着目することで推定する周波数補償付多周波位相追跡法を提案している. この位相追跡法では, 頸動脈壁がエレベーション方向には移動せず, 超音波プローブの計測断面内でのみ移動するという仮定のもとで粒子速度の推定を行っている. しかしながら, 実計測においては, 拍動によって生じる変位は3次元的であるため, エレベーション方向への動きを無視することは困難である. 本報告では, エレベーション方向の移動の影響を超音波シミュレーションによって検討した結果を報告する. シミュレーションファントムを軸方向および方位方向に一定速度で移動させたときに, エレベーション方向に異なる粒子速度で移動させた場合の軸方向および方位方向の推定精度を評価した. シミュレーション実験により, 方位方向の推定精度の方が軸方向よりもエレベーション方向の速度の影響を受けることが示唆された.
血圧計測に利用されるコロトコフ音(以下K音)の波形から,健康状態の把握もしくは虚血性心疾患などの疾患情報の検出ができるかどうかの検討を行っている. 近隣の健康福祉施設の協力により得られた過去10年にわたる数百人分のK音データを用いて,信号処理と統計処理を行い分析中である.波形は多くの情報を含むが,今回は現時点で見えてきた例と今後の見通しについて紹介する.
非接触音響探査法は,非接触非破壊で遠隔からコンクリートなどの複合材料の内部欠陥を検出・映像化する方法である.対象面を音波で振動させ,レーザドップラ振動計による2次元的振動速度分布測定からデータ解析を行う.内部欠陥の検出のため,振動エネルギー比とスペクトルエントロピーを用いた,健全部と欠陥部の識別法を提案してきた.しかしながら,従来用いていたスペクトルエントロピーは,絶対値ではなく相対値で,同じ測定条件では同程度の値を示すものの,異なる測定条件における値との直接比較はできないという問題があった.そこで,規格化スペクトルエントロピーを導入し,異なる測定条件でも比較できるように,その適用条件等の検討を行った.
スパースモデリングは疎に分布する解を持つ方程式の近似解法として,多くの逆問題に応用されている.本研究では,2次元定常面外波動場における波源同定問題にスパースモデリングを適用した.考慮した波源は物体力とき裂開口変位である.それぞれ,波源周辺における変位から物体力とモーメントテンソルを推定できることをシミュレーションによって示した.さらに,き裂の同定においては,き裂開口変位の位置や大きさのみならず,き裂の方向も推定できることがわかった.
中実丸棒を円周方向に伝搬する弾性表面波とその高次モードである回廊波の理論的特徴をまとめたので報告する。曲率を有する表面を伝搬する表面波はその曲率に依存した周波数による速度分散特性を有し,かつ高次モードである回廊波が無数に存在する。これらの理論分散特性と振動変位分布を示す。実験で表面波と1次の回廊波を検出したので報告する。
音波が薄層を通過する際,音圧透過率と反射率は周波数依存性を示し,共鳴周波数において前者は最大値を,後者は最小値を示す.本報ではこれを考慮した,水と試料との間に薄層が挿入された超音波伝達系で受信される波形の理論モデルを紹介する.さらに当該モデルを活用した,高分子薄層材料の評価事例を紹介する.
超音波を用いて結露等の微量な水滴も検知する方法について示す。送信探触子と受信探触子を対向させて鋼板に設置し、A0モードの板波を伝搬させる。アンプを介して送信探触子と受信探触子を接続し、発振ループを構成する。アンプ出力の周波数スペクトルから、水滴検知を行う。鋼板上に水滴がある場合には、周波数領域において高調波成分の振幅が低下することを実験で示し、この現象を利用すれば水滴検知は可能であることを示す。