インパルス音波と特殊な振幅相関合成処理を併用した地中埋設物の三次元映像化方法について、研究が進められてきた。この方法は、まず地表面に設置した電磁誘導型音源を用いて地中へインパルス音波を放射し、この音源を中心にクロスアレー型に設置した12個の受波器で地中埋設物からの反射波を受信する。そして、これら12個の受信信号に三次元の振幅相関合成処理を施すことで地中を映像化しようとするものである。本文では、複数埋設物の探査シミュレーションにおける適切な基準信号について検討し、さらに電磁誘導型音源の指向性を考慮したシミュレーションを行い、音源の指向性の影響による横方向の映像化可能範囲について検討した。
近年,RFA やHIFU などの経皮治療法が普及しているが,治療時の的確なガイディングや定量的な効果判定を実現するためには,超音波画像やCT などの複数のモダリティの3 次元データをフュージョンする作業が必要となる.そこで,US データとCT データのフュージョンを実現するための基礎検討として,2 つの3D-CT データを非線形レジストレーションおよび組織の弾性を考慮した変形によりフュージョンする方法を試みる.提案手法では,まず肝臓の表面形状を指標として非線形レジストレーションを行う.次に,有限要素法により表面形状の変化に伴う弾性的な内部変形を行う.本手法をRFA 治療の手術前後の3D-CT の肝臓データに適用し,その有効性を確認した.
心エコーや腹部エコーを行う際,診断に資する断層像を撮像するには専門的な知識や経験的な探査手技が必要となるが,プローブ走査を定量的に解析する手法は確立されていないため,安全性や被験者が感じる苦痛が検査者に依存するという問題がある.そこで我々は,模擬プローブに位置・力センサを取り付け,腹部ファントム上をなぞり走査をした際のプローブ軌跡,体表から受けるプローブ反力に着目し,解析を行った.そして,超音波プローブを取り付けたロボットに走査軌跡を再現させることで,断層像を取得する際の反力を間接的に取得することに成功し,考察を行った.
局所的な心筋機能の定量的評価に有用であるストレインレートを高精度に算出するためには,高精度な心臓壁の変位推定が必要である.心臓壁の2 次元変位の算出法にSpeckle Tracking が有用であるが,推定結果に関わる重要なパラメータ(関心領域や探索領域)の大きさについて定量的に評価されていない.そこで本報告では,経時的に変化する心臓壁の速度を基に各領域の大きさを時間毎に変化させ, 左室長軸断面における心室中隔壁の2 次元変位推定を行い,高精度な推定が行える可能性を示した.また, 心臓壁を模擬したシリコーンにXYZ ステージで変位を与え, 心臓壁の速度をもとに決定したパラメータを用いて推定された変位の精度評価を行った. その推定変位は非常に良く対応した.
近年,脳血管障害や虚血性心疾患などの循環器疾患の増加が大変大きな問題となっている.動脈硬化症はこれらの疾患の主因とされるため,動脈硬化症の早期診断は重篤な疾患の予防や高いQOL の確保のためにも大変重要である.Ross の障害仮説によると,動脈硬化は血管の内側から進行する.また,動脈硬化のごく早期には中膜を構成する平滑筋のタイプが変化することが報告されている.そのため本研究グループでは,血管壁の粘弾性特性を詳細に解析するために,壁の応力−ひずみ特性を計測する手法を開発した.本報告では,この動脈壁粘弾性特性計測法によって計測された応力−ひずみ特性をもとに,最小二乗法を用いて血管壁の粘弾性係数を推定する手法について精度評価を含めた検討を行った.
超音波凝固切開装置は腹腔鏡手術下などで広く利用されているが,設計上の処置部とは異なる位置の組織に損傷を与えることがあるのではないかと懸念されている。そこで,実際の装置においてブレードの振動分布を,レーザドプラ振動計を用いて計測するとともに,水中観測においてキャビテーションの発生状況を確認し,生体中での音波伝搬の状況を検証した。
本稿では磁気共鳴映像法により撮像された頭部画像データを用いた3次元声道形状モデルの作成、そして有限要素法によるその数値解析と可視化による解析結果の検討を行う。また、粘弾性体舌モデルを用いた母音発話/ei/の有限要素法による舌変形シミュレーション結果を元に作成した簡易声道形状モデルの音響特性を調べた結果を報告する。
我々は超音波診断に用いられるパルス超音波音場を可視化する手法として,従来のSchlieren光学系を用いずに超音波音場を可視化できるsimple Schlieren法を提案し,その有用性に関する検討を行っている.本報告では,まず提案するSchlieren法により実際の音場がどのように可視化されるかを光線追跡法を用いて検討し,次に3次元超音波音場の再構成に関する基礎的な検討として,多方向から撮影した超音波診断用プローブ音場のSchlieren像を基に,超音波ビームの横断面分布の可視化を行った結果について述べる.
超音波検査において音響陰影やコメットサインを伴わない小結石の検出は難しく、X線検査と比較し検査精度が高いとはいえない。小結石の検出精度について考察するため、我々は小結石の反射エコー電力、結石後方からのスペックルエコー電力について計算機シミュレーションを用いて検討する。その結果、直径が0.5-1mmの小結石からの反射エコー電力とスペックルからのエコー電力の比は10-15dBであり、反射エコー電力のみによる結石の検出は困難であることがわかる。また、0.5, 1mmの小結石の両者で音響陰影が存在し、音響陰影を用いて結石の検出が可能であることが示唆される。
動脈硬化症の進展により動脈壁の弾性特性は大きく変化するため,脈波速度法やスティフネスパラメータ法など動脈壁の弾性特性の計測法について古くから研究開発が行われてきた.本研究グループでは,心拍による動脈壁の径方向変位の径方向空間分布を計測することにより壁の径方向ひずみを推定し,血圧との関係から弾性特性を評価する手法を開発した.この手法では,内圧変化による円筒管の変位は径方向のみであると仮定できることから,動脈壁の径方向の変位のみを,超音波ビーム方向の変位として推定しているが,近年,動脈が,その長軸方向(超音波ビームと直交する方向: ラテラル方向)にも変位していることが確認された.したがって,動脈壁の変位分布をより高精度に計測するためには,動脈壁をその長軸方向にもトラッキングする必要がある.本報告では,長軸方向変位も含め,動脈壁の変位計測法に関する実験的検討を行った.
直径数ミクロンの微小気泡が超音波診断において造影剤として使われている.最近では,直径数百nmの微小気泡を遺伝子導入治療に応用することも検討されており,超音波照射下での種々の気泡のダイナミクスを定量的に評価する手法の必要性が高まってきている.本報告では,照射する超音波の音圧に依存して変化する超音波減衰の測定結果から微小気泡のダイナミクスを推定する音響学的手法と,高速度カメラを用いて超音波照射中の気泡のふるまいを直接可視化する光学的手法の2つを用いて,気泡径やシェルの材質の違いが気泡のふるまいに与える影響について検討を行った結果を報告する.
ポリエチレングリコール(PEG)修飾されたステルスリポソームは細網内系組織の補足を回避し、腫瘍への集積を向上させ、毒性を軽減させる。臨床では、ドキソルビシン含有PEGリポソーム、ドキシル®がカポジ肉腫や卵巣癌などの治療に使われている。ドキシルは体内で安定性が高く、受動的ターゲティングによって腫瘍に集積するが、集積後にドキソルビシンを放出しにくい。そこで、われわれはドキシルから新しいバブルリポソーム(Encapsulated Doxorubicin Bubble Liposomes; EDBL)を作成し、ヒトリンパ腫細胞株U937において、EDBLと超音波併用による殺細胞効果について調べた。その結果、EDBLと超音波の併用により殺細胞効果の増強が認められた。
超音波の作用は熱的作用および非熱的作用に分類され、後者はさらにキャビテーション作用および非キャビテーション作用に分けられる。最近の研究では、遺伝子導入や遺伝子発現に関する研究でも超音波の非熱的作用が重要とされている。今回は非熱的作用、特にキャビテーションに影響する超音波のパルス波の修飾効果とキャビテーションの増強に作用する微小気泡の影響について検討を行った。超音波発生装置として、周波数1 MHz, デューティ比 50%でパルス繰り返し周波数の可変型を使用した。キャビテーションに関係する化学効果の指標として、電子スピン共鳴-スピン捕捉法を用いDMPOを捕捉剤として使用し、・OHとの反応により生成するDMPO-OH付加体を測定した。生物学的効果の検討には、細胞としてヒトリンパ腫細胞株であるU937細胞を主に使用し、細胞死およびアポトーシスを指標に検討した。さらにHeLa細胞を利用して、遺伝子導入効果についても調べた。その結果、0.5 〜100Hzの範囲で顕著なパルス繰り返し周波数依存性効果を示した。微小気泡としてレボビストを使用し、その影響を検討したところ、超音波の効果が最も低いパルス繰り返し周波数帯で、微小気泡による増強効果が認められた。これらパルス繰り返し周波数修飾の意義と他に微小気泡の種類による遺伝子導入効果への影響について最近当教室で得られた成果を報告し、超音波の分子的治療に関わる因子について考察する。
これまでに我々は、超音波造影ガスを封入したリポソーム(バブルリポソーム:BL)を開発した。このBLは超音波照射との併用により、培養細胞に遺伝子導入可能であった。この遺伝子導入は超音波照射により誘導されるため、in vivoでは超音波照射部位のみに遺伝子導入可能な画期的方法になると期待される。そこで本研究では、BLを利用した組織特異的遺伝子導入法の確立を行った。BLとルシフェラーゼ発現プラスミドDNAをマウスに尾静脈内投与し、速やかに肝臓に向け体外から超音波照射した。その結果、肝臓でのみ高いルシフェラーゼ発現が認められた。それゆえ、本方法が標的組織特異的遺伝子導入における基盤技術になると考えられた。
自動車に関わる環境問題の一つに道路交通騒音があり,依然として厳しい状況が続いている.今後,道路交通騒音の更なる低減のためには,発生源,道路構造,沿道環境などから対策を講じる必要があるが,その一方で,騒音に対する住民反応に着目した心理音響的な面からの検討も重要である.本研究では,さまざまな交通条件における道路交通騒音を実験室で聴感的に再現するAural simulation 手法を構築し,路面が改良された場合の予測を試みた.その結果,路面の改良による道路交通騒音の聴感的な変化を予測可能であることが分かった.
バスレフ型スピーカは再生や計測に広く利用されているが、その定性的な動作の理解には十分でない部分も残されている。そこで本研究ではスピーカ周囲の音場を可視化することでその振る舞いを検討した。その結果、以前から存在が確認できていた周波数応答の高域の谷について、ダクトの共鳴による逆相音源の出現が原因であることを確認した。また、低域におけるヘルムホルツの共振周波数付近の振る舞いについて、可視化を行うことでその動作を確認した。
著者らはこれまで,球バッフルマイクロホンアレイとビームフォーミングを用いて音場の可視化に取り組んできた.しかし,ビームフォーミングは低周波域での分解能に課題があり,かつ,定在波音場のような自由音場と見なす事が難しい状態ではその可視化結果に疑問が残る.一方,近距離音響ホログラフィは低周波及びアレイの近傍に計算領域は限られるものの,音圧,粒子速度を予測できる手法として主に平面座標系,円筒座標系で定式化され,利用されてきた.本稿では,近距離音響ホログラフィを球面座標系で適用し,球バッフルマイクロホンを利用した計測と球周辺の音響インテンシティを可視化した事例を紹介する.
本報告では,マルチGPU (Graphic Processing Unit) 環境による音場シミュレーションの高速化に関する検討を行っている。複数(最大4 つ) のGPU を1 つのマザーボードに実装したマルチGPU 環境において,各GPU を並列動作させることでシングルGPU よりもさらに高速なシミュレーションを試みる。GPU プログラミングにはCUDA (Compute Unified Device Architecture), 並列化にはOpenMP を使用し,マルチコアCPU の1 つのコアに1 つのGPU を受け持たせることでマルチGPU に対し並列化を行う。分割された音場領域を複数のGPU で分割して計算する場合,各時間ステップにおいて分割された各領域間で境界情報の共有が必要となるが,GPU 間通信にはPCI Express を用いる。2 次元音場をディジタルホイヘンスモデル(DHM) 法やFDTD 法でモデル化した場合について,マルチGPU による並列化性能について評価を行う。数値実験の結果,4GPU におけるピーク性能として4.79GFUPS (Field UpdatePer Second),52.7GFLOPS,並列化率89.5%が得られた。
超音波は,RFAのガイディングやHIFUなど,間接的または直接に肝臓の治療にかかわることが多い.さらに近年では,内視鏡手術の精度と効率を向上させるために,超音波断層像を併用しようという試みなどがある.しかし,いずれにおいても超音波画像やCT などの複数のモダリティの高精度な3 次元フュージョンや,セグメンテーションなどが必要であるのに対し,現状では各モダリティに対する処理法が独立して研究を進められており,いまだ統合はされていない.また,治療支援に用いられるバーチャルリアリティ(VR)においては,超音波の画像は単純なボクセルデータとして扱われ,その特長を活かしきれていない.そこで本講演では,肝臓治療や治療支援に関する医用画像処理の現状に加え,そこに超音波の技術を組み込むことについて提案する.
高い距離分解能で複数目標を検出可能な医用超音波イメージングを実現するため、我々は周波数領域干渉計法(FDI)とCapon法を用いたイメージング技術を提案する. FDIは信号の各周波数における位相が周波数ごとに異なるため, この位相差を用いて複数目標の位置を推定する. Capon法は出力電力の最小化により高分解能イメージングを実現する.同一レンジゲート内に存在する相関性干渉波を抑圧するために周波数平均法を用いる. 計算機シミュレーションの結果, 適応型周波数平均法を用いたCapon法が単純周波数平均法を用いたCapon法及び従来法より高い距離分解能を示した. これらの技術を実験によって評価しFDIによる提案法の有用性を検討した.
近年ネットワーク伝送速度の高速化と診断装置の小型化により,患者宅と病院間での遠隔超音波診断が実現しつつあるが,患者側の撮像手技の補助に関しては未解決であり,通常の診断に比べ断層像の取得に時間を要していた.そこで本研究は,長軸断面を撮像する際の指標となるCGを,AR(拡張現実感)技術により患者体表を撮影したUSBカメラ画像中に重畳表示するシステムを開発した.左心室の形状は,最小2乗法による楕円近似を用いることで抽出した.これにより,遠隔超音波診断時の補助となることが示唆された.
複数の超音波駆動気泡が近接して振動する場合,気泡間にはsecondary Bjerknes forceと呼ばれる引力または斥力の相互作用が働く.この相互作用は,気泡の放射音波に起因する音響放射力が他気泡に相互的に働く現象として知られている.高速度ビデオカメラを用いた気泡挙動の光学的イメージングを基に,二気泡間に働くsecondary Bjerknes forceの大きさ及び向きの気泡半径,気泡間距離,照射音圧に対する依存性について実験的に検討した.観測結果より,特定の気泡半径では,気泡間距離に依存して力の向きが反転することが確認された.また,照射音圧の増加に伴い,力の向きが反転する気泡半径条件は変化することが観測された.
薬剤投与、栄養管理、体外循環時に最も多く用いられる体内留置カテーテルにおいては、その出口部でのトンネル感染が院内感染の主要な要因となっており、新たな感染防止対策が望まれている。この課題に対応するため、本研究では、カテーテル出口部を酸化チタン複合シートで被覆し、そこに、生体安全性を確保する出力レベルで超音波照射を行うことにより滅菌効果を発現させる感染防止策を検討している。本稿では、上記感染防止策の基礎検討として、低出力超音波を用いたときの酸化チタン励起作用について実験的に考察した。
近年, 超音波ビームの方向と血流の方向がなす角に依存しない血流速度計測法が研究されている.これらの方法は主に, (1) 超音波音場を従来の超音波ビーム方向と垂直な方向にも変調することにより, その変調成分の周波数と位相変化を用いて従来の超音波ビーム方向成分だけでなくそれと直交する方向の速度成分も推定するもの, および(2) 血球からの散乱エコーのパターンを2 次元的にトラッキングするもの, の2 つに大別される.本研究では, (2)を実現するために必要な高フレームレート超音波イメージング法について検討を行った.
近年の超音波診断装置のポータブル化や高齢化社会の進行による患者の増大により,在宅での超音波診断を行う環境が整備されてきた.しかし,在宅環境において診断に適した断層像を取得するためには患者の家族によるプローブ操作を教示するシステムが必要である.そこで本研究では, 医師が操作したプローブの位置・角度をARToolKit により記録し,在宅での検査時には同kit とOpenGL によるCG を用いてプローブ操作を再現するシステムを開発した.さらに,再現された情報と共に病院に伝送される診断風景画像と断層像を参照して医師が指示を行い,患者側の操作者にCGとして呈示する遠隔超音波診断システムを開発した.これにより,診断における3次元情報を医師と操作者が共有し,直観的かつリアルタイムに医師のプローブ操作を再現することが可能となった.
浅い層に埋もれた遺跡・遺稿の探査に横波を用いた地中映像化を検討している。超磁歪振動子よりChirp波を発生させ、パルス圧縮法を行い、それを用いることにより映像分解能の向上を検討している。今回は探査実験場でChirp波の瞬時周波数毎の減衰を計測し、シミュレーションによりパルス圧縮を行った際の映像の半値幅を算出した。その後、屋外において映像分解能の確認実験を行った。それらの結果より、パルス圧縮における瞬時周波数の減衰を考慮することにより、映像分解能改善の効果が現れたので報告する。
地中レーダは広く地中探査に用いられている。しかしながら、地表面から10 cmまでの極浅層領域の探査は地表面からの反射波の影響で困難である。また世界中で地雷が問題となっているが、既存の方法は電解質を含む土壌や、プラスチック地雷の探査が困難であるなど、問題点がある。そこで音波とSLDVを用いて極浅層領域地中映像化を行い、地雷などの地中埋設物探査を行う手法を提案している。今回は弾性波振動と空中放射音波の比較検討を行った。その結果、空中放射音波は弾性波と比較して振動速度が低くなるが、距離による減衰が少ないという結果が得られた。また双方の振動現象で、埋設物の映像化が行えた。
空中音響計測において,コード化信号を用いた移動体の計測の特性について検討した。コード化信号としてM系列を用いると,移動体からの反射波はドプラ効果を受け相関利得が低下する。参照周波数を変化させれば相関ピークが大きくなるが,その一方で固定反射点からの反射波が相関ノイズとして混入する。そのため,両者が混在する受信信号では,移動体からの反射成分のSN比は,環境雑音に加え固定体からの反射成分により制限されることを示し,定量的に相関利得を求めた。固定体からの反射波が大きい場合は,連続的に送受した信号間の差分処理により固定点の反射波を除くことが有効で,移動体からの反射成分を検出することが可能であった。
片持ち梁の熱弾性の観点から運動方程式および熱伝導方程式に熱放射を考慮した式を基にQ値を予測する手法を述べている。熱放射を考慮した熱伝導方程式を近似計算の一つである摂動法により解析し、一次摂動まで含む近似解で与える振動子内の温度分布が断熱と等温の中間の温度分布を与える式の温度分布の形と同じになるようにしてQ値を計算する手法を開発した。この方法で求めたQ値は熱放射を含まない熱伝導方程式より求めた断熱近似のQ値よりエッチング加工音叉型水晶振動子の実測Q値に近いことが分かった。
多数の銅細線を編み合わせた編線は可撓性があり振動に耐えるため、電気機器、電解層、自動車のバッテリー等のアース線として多数用いられている。用途により直径の異なる数千本の銅細線を撚り合わせて編み線を構成している。編み線は素線を適当本数を撚り合わせ更にこれを撚り合わせて可撓性のある編み線を構成している。平編み線の接続は金属端子に半田接合または圧着により接続し、これをねじ接合している。この平編み導線の端部または必要に応じて途中で20 kHz、2 kWの超音波複合振動溶接機を用いて溶接し端子部を直接構成することを試みた。溶接試料としては、直径0.05mm の銅細線を4064本編み合わせ12 mm 幅とした平編み線等を用いた。溶接チップとしては滑り止めの刻み目が付いた10mm 角および12 mm 角の平面溶接チップを用いた。溶接中の振動速度は環状電磁型振動速度検出器を縦振動源に設置し測定・記録した。振動振幅16 μm 程度で溶接部厚さ0.8 mm 以下となり平編み線は完全に溶接され、板状の端子部を直接形成可能である。端子部に直接穴を加工して、ねじ接合が可能である。
金属ピン・軸等の押し込み加工時に20 kHz の超音波振動を静加工力に重畳して押し込み固定加工を行う超音波振動押し込み固定加工について検討した。金属ピン、中心軸等の固定には押し込み穴部の加熱または押し込みピンを低温状態で押し込み加工を行うか、または静圧力を印加して押し込み固定加工を行っている。静圧力のみでの押し込み加工では加工力が大なため固定側の軸受け台座等が破損する、また固定力が減少する、更に中心軸が偏芯し補正が必要である等の欠点がある。押し込み加工時に超音波振動を静圧力に重畳させて押し込み加工を行うことにより押し込みに必要な静加工力が減少する。このため製品の破損が減少し、固定軸等の偏芯が改善される。する場合の必要加工力、保持力、ピンまたは穴部の粗さ等について検討した結果、通常のプラスチック溶接用の振動装置では押し込み力が減少し、金属ピンまたは穴部の表面粗さが減少するが、金属ピンを押し出すのに必要な固定力も減少する。大容量の超音波振動装置を用いて検討した結果、比較的低速押し込み加工では固定力が減少するが高速・大振動振幅で押し込み加工を行うことにより固定力が増加し偏芯も減少する事が明らかになった。
弾性表面波とその応用に関する研究に携わって30年がたった。この節目の年が、丁度著者の定年退職の年と重なった。このときに、これまで行ってきた研究を振り返ってみるもの悪くないと思い、古いことを思い出しながら、弾性表面波のこと、センサのこと等をまとめた。