Journal of Science EGGS
2024 - Vol. 7

2024 - Vol. 7

秋田高校の凍結した坂道での交通整理シミュレーション J. Sci. EGGS, 7, 2470007 (2024)
Traffic control simulation on a frozen slope at Akita Senior High School
山上陽 香理 , 内ヶ崎 巧真 , 石田 晴那 , 押久保 信 , 野呂 耕一郎 , 遠藤 金吾
Hikari YAMAKAMI , Takuma UCHIGASAKI , Haruna ISHIDA , Shin OSHIKUBO , Koichiro NORO , Kingo ENDO
Received: October 02, 2024
Accepted: October 30, 2024
Released: November 15, 2024
Keywords: 交通シミュレーション, セルオートマトン, 雪道, 坂道発進
Traffic Simulation, Cellular Automaton, Snowy roads, Starting on a hill
Abstract Full Text PDF[560K]

本校には校門から校舎をつなぐうぐいす坂と呼ばれる急な坂があり、また歩行者は坂のいずれかの地点で横断しなければならず、交通事故の危険性が高くなっている。中でも、冬季には坂の表面が凍結し、歩行者の横断のために停止した自動車が再発進できなくなる可能性があることから、冬季の安全な横断箇所の提案を目的とした。Microsoft Excel VBAを用い、セルオートマトン法によるシミュレーションを行い、自動車と歩行者の横断のタイミングが重なった確率(自動車停止率)を調べた。シミュレーションの正確性を確かめるために、現地調査を行い、結果を比較した。シミュレーションでは、歩行者の人数と自動車の台数の条件によって自動車停止率に違いが生じた。現地調査の結果より、自動車停止率は、歩行者の人数と自動車の台数に依存する傾向があったが、一方の要素が大きすぎる場合では、その傾向から外れることが示された。以上の結果を照らし合わせ、坂下から150 m付近が横断箇所に最も適切ではないかと結論付けた。今後は、シミュレーションの精度を上げるために、自動車と歩行者が互いに認知し、加速したり減速したりできるようにしたい。交通量調査の際に、自動車の通行の妨げにならないように歩く速度を調節する歩行者が多くいた。カーブがなく見通しが良いところでは、互いを認識することで横断のタイミングが重ならないようにしようとする意識が働き、自動車の停止率への影響が大きくなり、結果に変化が生じると考えられる。

アブラナ科植物ファストプランツBrassica rapaにおける突然変異検出の実験系の構築と紫外線UV-B、UV-Cによる影響の評価 J. Sci. EGGS, 7, 2430006 (2024)
Construction of an experimental system for detecting mutations in the fast plant Brassica rapa and evaluation of the effects of ultraviolet light UV-B and UV-C
奥山 みのり , 見上 七星 , 近藤 晄乃 , 山田 貴裕 , 遠藤 金吾
Minori OKUYAMA , Nanase MIKAMI , Akino KONDO , Takahiro YAMADA , Kingo ENDO
Received: August 02, 2024
Accepted: October 08, 2024
Released: November 15, 2024
Keywords: 紫外線, アブラナ科, 突然変異
Ultraviolet rays, Brassica napus, Mutation
Abstract Full Text PDF[634K]

本研究では紫外線によるアブラナ科植物への突然変異生成の検出系を構築することを目的とした。アントシアニン合成に関わる遺伝子であるANL遺伝子について、正常遺伝子をANL+、変異遺伝子をanl-としたとき本研究で用いたファストプランツ(Brassica rapa)はANL+/-のヘテロ接合体となっており、この遺伝子DNAに紫外線が作用しANL+/-である紫細胞からanl-/-である白細胞へ変化したことを指標とし突然変異を検出した。植物の病害抵抗性を誘導することによりうどんこ病発生の抑制に用いられているUV-Bに関しては、本研究において線量を変化させてもファストプランツの突然変異頻度はほとんど変化しなかったため、アブラナ科植物のゲノム不安定性を引き起こすことなく、うどんこ病の抑制に使用できることが示された。UV-Cに関しては、3.2 J/cm2までは線量依存的にファストプランツの突然変異頻度を増加させた。また、4.8 J/cm2におけるファストプランツの突然変異頻度は、細胞死の誘導も推定されることから、3.2 J/cm2と比べて有意水準5 %で差が認められなかった上に、他の線量と比べ標準誤差が大きくなっていた。これらのことから、品種改良には3.2 J/cm2の線量が最適だと結論付けた。
The objective of this study was to establish a detection system for UV-induced mutagenesis in Brassica rapa. The fast plants used in this study were heterozygous for ANL+/-, where the normal gene is ANL+ and the mutant gene is anl-. The mutation was detected as an indicator that the DNA of the ANL+/- gene changed from ANL+/- (purple cells) to anl-/- (white cells) when UV light was applied to this gene. UV-B has been used to suppress powdery mildew by inducing disease resistance in plants. The mutation frequency of fast plants hardly changed even when the dose was changed, indicating that UV-B can be used to suppress powdery mildew in Brassica plants without inducing genome instability. UV-C increased the mutation frequency of fast plants in a dose-dependent manner up to 3.2 J/cm2. The mutation frequency of fast plants at 4.8 J/cm2 was not significantly different from that at 3.2 J/cm2 at the 5% significance level, probably due to the induction of cell death, and the standard error was larger than that at other doses. Based on these findings, we concluded that the dose of 3.2 J/cm2 is optimal for breeding.

イネ実生の総可溶性タンパク質量を増加させる窒素源の探索 J. Sci. EGGS, 7, 2430005 (2024)
A search of a nitrogen source that increases the amount of total soluble protein in rice seedlings
岡崎 百花 , 杉尾 花音 , 春原 美咲 , 木村 知美 , 菊池 涼汰 , 津川 真央 , 叶内 愛莉 , 清水 瞭太 , 竹島 幸乃 , 伊藤 幸博
Momoka OKAZAKI , Kanon SUGIO , Misaki SUNOHARA , Tomomi KIMURA , Ryota KIKUCHI , Mao TSUGAWA , Airi KANOUCHI , Ryota SHIMIZU , Yukino TAKESHIMA , Yukihiro ITO
Received: May 29, 2024
Accepted: September 20, 2024
Released: November 15, 2024
Keywords: タンパク質生産, 培地, クラゲ, イネ
Protein production, Medium, Jellyfish, Rice
Abstract Full Text PDF[3M]

本研究では、イネもやしを用いて有用タンパク質を生産することを念頭に、植物培養用の培地やクラゲ溶解液がイネ実生の総可溶性タンパク質量に与える影響を調べた。イネの種子を明所および暗所で発芽させ、発芽後7日、10日、14日の総可溶性タンパク質量を調べたところ、明所、暗所ともに培地を添加すると総可溶性タンパク質量が大幅に増加することがわかった。窒素源としては有機態窒素より無機態窒素がタンパク質量増加効果が大きかった。クラゲ溶解液の添加でも総可溶性タンパク質量の増加は見られたが、培地の添加よりは増加量が少なかった。以上の結果、培地やクラゲ溶解液等の肥料となる成分を添加することにより、イネ実生の総可溶性タンパク質量が増加することがわかった。ただし、クラゲ溶解液の効果は低く、タンパク質量増加効果を十分発揮させるには塩化ナトリウムの濃度を低下させ、増加効果をもたらす成分を濃縮する必要があると考えられた。

菌の能力を引き出す―枯草に納豆菌はいるのか?― J. Sci. EGGS, 7, 2430004 (2024)
Bring out the ability of bacteria -Is there natto bacteria in the withered grass?-
角谷 奏樹 , 伊藤 春香 , 佐々木 珠美 , 佐竹 航太郎
Soki KADOYA , Haruka ITOU , Tamami SASAKI , Koutarou SATAKE
Received: December 05, 2023
Accepted: September 20, 2024
Released: November 15, 2024
Keywords: 納豆菌, 枯草菌, セレウス菌, 胞子
Bacillus subtilis natto, Bacillus subtilis, Bacillus cereus, Spore
Abstract Full Text PDF[1M]

糸引き納豆は室町時代より蒸し大豆を稲わらに包んで作られてきたが、これは付着している納豆菌の耐熱性胞子を利用したものである。身の回りの枯れ草から納豆菌(枯草菌Bacillus subtilis)の分離を試みた結果、枯草菌に加えセレウス菌(Bacillus cereus)が確認された。単離された4株の枯草菌を市販の納豆菌を比較したところ、全ての分離株は蛋白質分解酵素、澱粉分解酵素を分泌していた。一方ダイスエキス-ショ糖-グルタミン酸培地では、2株が納豆菌同様盛り上がったコロニーを形成したが、残り2株はシャーレ一面に広がり糸引きは弱かった。これらの培養液を蒸した大豆に添加して37℃で24時間保温したところ、いずれも匂い、糸引きとも市販納豆から分離した納豆菌とほぼ同じ状態になった。シャーレ内でかき混ぜた糸に70%エタノールを添加することで、ほぼ同等の糸が作られていることを確認した。身の回りの枯れ草には納豆を作る能力のある納豆菌の胞子が存在すると同時に、納豆菌以外の有害な菌の胞子も存在していることが分かった。

信号反応の還元機構に糖が与える影響 J. Sci. EGGS, 7, 2420002(2024)
Effects of sugar on the reduction system of traffic light reactions
東 拓優
Takuya Higashi
Received: September 14, 2023
Accepted: October 18, 2023
Released: January 29, 2024
Keywords: 信号反応, 単糖, 二糖, 直鎖状分子
Traffic light reaction, Monosaccharide, Disaccharide, Acyclic molecule
Abstract Full Text PDF[1M]

信号反応とは、インジゴカルミンが塩基性溶液下で酸化還元反応によって、緑、赤、黄色を呈色する反応である。インジゴカルミンが酸化された時には黄色のロイコインジゴカルミンから赤色の中間体を経て緑へと変わり、還元された時には緑から赤を経て黄色へと呈色を変化させる。本研究の目的は、インジゴカルミンに対する還元剤として用いる還元に関する条件を変化させることによって糖がインジゴカルミンの色が変わる時間へ与えている影響を明らかにすることである。色が変わる時間は反応の様子を録画した後、RGB 値を用いて決定した。グルコース、ガラクトース、フルクトースの順に色が変わる時間が短かったこと、同じモル濃度のマルトース、ラクトース、グルコースの色が変わる時間が近かったことからホルミル基やカルボニル基などの還元性を示す官能基の存在量が多いほど色が変わる時間が短いと分かった。また、グルコースとガラクトースの割合を変えて混合した際の色が変わる速度のグラフがほぼ一直線上に近い形で推移したことや各単糖の濃度と信号反応を行った際の色が変わる速度のグラフがそれぞれ比例的に推移したことから、 1 種類の糖を用いた場合や2種類の糖を混合した場合であれば信号反応を用いた糖の定量を行うことが可能になると考えられる。そして、実際に清涼飲料水を用いて信号反応を行い、糖の定量を行うことが可能か確認した。

チェレンコフ光検出の最適条件 J. Sci. EGGS, 7, 2410003(2024)
How best to detect Cherenkov lights
久世 優果 , 久保田 佳歩 , 小林 南奈 , 田中 香津生
Yuka KUZE , Kaho KUBOTA , Nana KOBAYASHI , Kazuo TANAKA
Received: October 05, 2023
Accepted: October 26, 2023
Released: January 29, 2024
Keywords: チェレンコフ光, 宇宙線
Cherenkov light, cosmic ray
Abstract Full Text PDF[1M]

小型で簡易なチェレンコフ検出器を製作するため、プラスチックシンチレータを用いた放射線検出器のシンチレータをアクリルブロックに置き換えることで宇宙線のミュオン由来のチェレンコフ光の測定及びアクリルブロックの最適化を行った。本チェレンコフ検出器とシンチレータを用いた検出器を同時に通過した宇宙線を測定することで宇宙線の検出効率を評価し、天頂角度依存性測定から宇宙線が測定できていることを確かめた。さらに、アクリルブロックの高さを10 cm、20 cm、30 cm変更したところ、宇宙線の検出効率は10 cmの場合がもっとも高いことを確かめた。本チェレンコフ検出器は2 万円程度で製作可能でPCからのUSB電源供給駆動で動作し、中高生でも扱える最も手軽な検出器であるといえる。

μ粒子検出頻度の周期性と太陽活動との相関解析 J. Sci. EGGS, 7, 2410001(2024)
Correlation analysis between the periodicity of muon detection frequency and solar activity
池本 雄途 , 柴田 圭輔 , 加藤 文也 , 熊谷 洸希 , 田中 香津生 , 藤井 翼
Yuto IKEMOTO , Keisuke SHIBATA , Fumiya KATO , Kouki KUMAGAI , Kazuo S. TANAKA , Tsubasa FUJII
Received: October 06, 2023
Accepted: October 17, 2023
Released: January 29, 2024
Keywords: μ粒子, 太陽活動, 黒点相対数, 周期, 偏相関
Muon, Solar activity, Sunspot relative numbers, Periodicity, Partial correlation
Abstract Full Text PDF[988K]

秋田高校内にμ粒子検出器CosmicWatchを設置して測定してきており、これまでの観測データからμ粒子検出頻度には周期性があることが示されている。先行研究から、宇宙線と太陽活動には負の相関があることが報告されている。本研究では、μ粒子検出頻度に周期性がある要因として太陽活動の影響があることを仮定し、太陽活動データとμ粒子検出頻度のデータを用いて様々な解析を行った。太陽活動データとして、太陽活動定量評価と黒点相対数の2つの指標を用いて解析したところ、これらの年較差とμ粒子検出頻度の年較差の解析から、太陽活動とμ粒子検出頻度には負の相関があることが分かった。また、太陽活動の各データとμ粒子検出頻度のそれぞれに共通した18日周期が検出されたことから、μ粒子検出頻度の周期性の要因として太陽活動が存在することが示唆された。精度の高い解析を行うには、今後、μ粒子の測定期間を年単位で延長してデータを収集することが必要であると考えられる。